ようこそ! 京都学園大学経営学部

竿田嗣夫教授が聞く

  • 2007年12月 2日(日) 10:39 JST
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VOL.5

竿田嗣夫教授が聞く

クラブコング㈱・松本整代表

 

 
クラブコング㈱:
京都・長岡京市にあるスポーツクラブ。独自のマシンを用いたトレーニングと、松本整社長の提唱するパワーチェンジトレーニングが注目を集め、オリンピック選手などが通うトレーニングジムとなっている。
松本整(まつもとひとし)氏
クラブコング㈱代表、NPO法人 日本運動能力研究所 理事長。1959年京都市生まれ。著書に『勝負に強い人がやっていること』など。1980年に競輪選手としてデビュー、2004年、45歳という史上最高齢でビッグタイトル獲得後引退。現役選手時代から順天堂大学で研究生としてスポーツ理論を学び、引退後はクラブコング㈱を経営。日本体力医学会・日本体育学会会員。2007年秋より日本競輪学校特別講師。

競輪
日本生まれの自転車競技。現在は『KEIRIN』の呼び名でオリンピック種目にも採用されている。パワー、スピード、戦略力が要求されるハードな競技で、松本氏のように40歳を過ぎてもトップランクで戦える選手は極めて少ない。また選手養成所の日本競輪学校は日本一規則の厳しい学校としても有名。
 

自分が面白いと思えることを理詰めで追いかけて
 

竿田
今日は競輪のスター選手だった松本整さんのスポーツトレーニングジム『クラブコング』におうかがいしてお話をうかがいたいと思います。松本さんは、京都学園大学のある亀岡市にお家をお持ちだそうですが。
松本
亀岡でもずいぶん奥に入ったところなんですけど。24歳の時に、練習の拠点として家を持ちました。トレーニングで山道を自転車で走ることが多く、そのためですね。
竿田
20代の頃から練習熱心な選手だったわけですね。
松本
僕が特に、と言うわけではありません。良い選手はみんな、練習環境を第一に考えて住まいを選びますよね。日々の練習が結果となって現われるスポーツですから。これでいい、と思ったらそのレベルで止まってしまいます。上を見てやらないと、プロの選手になった意味がないですから。
竿田
そもそも競輪選手になろうと思われたきっかけは?
松本
高校時代から「俺は会社勤めには向かないな」と思っていました。ラグビー部と掛け持ちで、いろいろなバイトをやっていたちょっと元気な高校生だったのですが、そのバイト先の人間関係とか経験する中で、勤め人は難しいかな、と。
竿田
具体的にはどんな体験だったのですか。
松本
店長が適材適所をわきまえた人員配置をしない、とか、会社の偉い人の息子がバイトに来て、ミスしてもあやまらない、とか。そういう場面で、つい言ってしまうんですよね(笑)。正論は通るものだ、と思っていましたから。
竿田
正論を貫こうとされたんですね。そうして、今は経営者になられたわけですが、経営者としてもやはり正論にこだわっておられますか?
松本
ビジネスはどう生き残るか、という厳しさがありますね。ビジネスでは、やはり成功しないといけない。でも、自分が納得できない形で成功しても面白くないでしょう?仕事で成功しても、人や社会から愛されなければ意味がない。
竿田
私の故郷の西郷隆盛は『敬天愛人』という言葉を座右の銘とされていましたが、京セラ創業者の稲盛名誉会長も同県人として、この言葉を好まれています。それに通じるものがありますね。
松本
そんな凄い人と比べられても困りますが(笑)。企業経営にあたっては、どこかに経営の哲学を持たないといけないと思います。あとは、どんな世界でもその世界に入った以上、トップを目指さないと面白くないですよね。
竿田
その「面白くない」という気持ちが、例えば選手時代の練習の工夫や、大学でスポーツ理論を学ぼうという気持ちの源ですか?
松本
そうですね。まだ勝てる、もっとすごい選手になりたい、という気持ちが強かったですね。そうすると、技術を磨いていくしかないわけです。トップレベルの選手になると、体力面での差はそんなにないですよね。差がつくのはかけひきの力とか技術。そこで、その技術を身につけるためにもっと良い手法があるはず、と考えていたわけです。
竿田
技術を身につける方法、つまり効率的な練習法と理論ですね。
松本
技術の修得については、選手はみんな自分の感覚でやっていたわけです。もちろん、ある種の理論みたいなものはありましたが、データできちんとエビデンス(証明)されていなかった。僕は自転車の技術は「ペダリング」に尽きると考えていますが、人間がどういうフォームでどう力を入れればベストの推進力が得られるのか、そのためにはどこをどう鍛えれば良いのか、というのは当時まだ確立されていなかったわけです。
竿田
そこで、まず客観的なデータ収集から。
松本
そうです。その機械(測定器)は競輪学校にあったのですが、その蓄積されたデータをそれまでは分析しきれていなかった。測定からもう1歩踏み込んで、その結果からどうすれば良いか、まで至っていなかったわけです。それを、42歳で順天堂大学に研究生として入って、みなさんの力を借りて研究して。実は、今月の日本体育学会で「ペダリングスキル」について研究報告したんですが、自転車競技、ことに競輪界からは世界で初めての発表だったと思います。
竿田
これまでもスポーツの世界では、コーチやトレーナーもおられましたよね。
松本
ええ、でもどちらもデータを分析されている人は多くなかったと思います。僕の研究は、ある競技に求められる動きの『特異性』、その上手い下手を問題にしているわけですが、きちんとしたデータ解析があって初めて、今の自分の技術と比較もできるわけです。まずは考える作業があり、そして、自分で動いて感じることがあって、と。その積み重ねが大事ですね。
竿田
それらのデータをもとに、じゃあどういうトレーニングをしたら良いか、ということで、新しいトレーニング機器も開発されたわけですね。
松本
そうですね。また、僕は自転車の選手ですが、他のスポーツにもこのような考え方は応用できますよね。だからフィギアスケートとかスケルトンとか、違う種目のオリンピック選手の指導もできていると思います。その競技で必要な動きの部分(特異性)を、個々にどう効果的に鍛えて、ロスなく自分の特性を競技に結びつけるか、ということですから。どういう力を、どのタイミングで、どの角度で発揮したら良いのか、というのを競技ごとに見極めていき、それに合わせたトレーニング法を考えるのが僕の役割ですね。
竿田
そういう理詰めで考えていかれる姿勢が、40歳代でトップ選手であった秘訣ですね。
松本
もし僕が20歳代の時に、このトレーニング法に気づかせてくれていたら、世界で活躍できたでしょうけれど(笑)。ただ、今みたいに理論を確立してはいなかったですが、昔から考えてはいましたから。他の選手にない武器をどう磨くか、と。できるだけ、トップで長くいるためには、やはり工夫が必要です。
竿田
工夫と言うか、好奇心が旺盛な方だなあ、と感じますね。自分が興味を持てる、面白いと思えることをどんどん取り入れておられるように思えます。
松本
それはやはり、面白くないことはやりたくないですよ(笑)。面白くないことには情熱もわかないし。
竿田
そういう気持ち、今の若い人はどうなんでしょうか。
松本
うーん、まず何でもいいからやってみて欲しいですよね。家でテレビ見ていて「アー、面白くないなあ」と言っていても何も始まらないですから。何かやってみたら、面白いことが見つかるかもしれない。自分が思っていたことと違うところに面白さがみつかるかもしれない。死ぬまで面白いことをして生きたいじゃないですか。
竿田
それで成功していくには、いつも真剣に、面白いことと向き合う必要がありますね。
松本
そうですね。努力と言うか、ベストを尽くすために細心の注意を払い、耐えるところは耐えることが必要ですね。少なくとも「運が悪かった」で済ませてほしくない。7割努力、あと3割を運にまかせる、なんて違いますよね。あと、自分では頑張っているつもりでも、一流の人の頑張り方を見れば自分の甘さに気づくこともあるはずです。自分は3流だ、だからこそ一流の思考を学び、それに近づく行動を取る、という気持ちがほしいですね。少し自分に甘い人が多いような気はします。
竿田
最近は若い人や学生で起業をしようという人が増えていますが、私から見ても甘いなあ、と思う人もいますね。今は松本さんも経営者であるわけですが、経営者に求められるものって特にありますか。
松本
うまく行かない時の覚悟があるかどうか、でしょう。苦しいときの頑張りこそがリーダーに求められるものではないかな、と思います。坂本竜馬じゃないですけど、「死ぬときまで前のめりで行きたい」という気持ちがまず大事だと。その覚悟があれば、例え(失敗して)丸裸になっても、満足して死ねると思いますよね。あと、どんな苦しい練習でも負けることに比べれば辛くない。負けに慣れたら終わりでしょう。

竿田
これからも、松本さんは新しい事業で勝負を続けられるわけですね。
松本
そうですね。ビジネスは無差別級ですから、大変な勝負だと思いますけど。でもそれだけに可能性も大きいですからね。面白いですよ(笑)。
竿田
やはり好奇心の人だ(笑)。今日は良いお話をうかがえました。本当にありがとうございました。
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