研究室の窓

「研究室の窓」は、経済学部教員がそれぞれの専門分野における自身の研究をQ&A方式で紹介していくシリーズです。本学の経済学部教員の専門分野・研究内容を知る端緒としてお読み下さい。

【第4回】  古木圭子先生

Q1

研究テーマ(分野)を簡単にお聞かせください。

私の主な研究分野は、アメリカ演劇です。アメリカ演劇というとブロードウェイ、そしてミュージカルをすぐに思い浮かべるかもしれませんが、歌や踊りの入らない、セリフとアクションを中心としたストレート・プレイ(straight play)を専門に研究しています。現在取り組んでいるテーマの一つは、アメリカの劇作家テネシー・ウィリアムズ(Tennessee Williams, 1911-1984)が、歌舞伎や能などの日本演劇の要素を、どのように自作の劇に取り入れていたのかということです。また日系アメリカ人を始めとするアジア系アメリカ人作家の作品にも興味を持ち、研究に取り組んでいます。

Q2

その研究を進めていくことで、世の中には、どのようなことが期待できるのでしょうか。

テネシー・ウィリアムズという劇作家は、1950年代から多くの日本人研究者によって取り上げられ、論じられてきました。また、彼の代表作である『欲望という名の電車』や『ガラスの動物園』といった芝居は、何度も日本語に翻訳されて上演が行われ、他のアメリカ人劇作家を凌ぐ人気があります。またウィリアムズは、三島由紀夫を始めとする日本の劇作家、小説家にも興味を持っていましたし、能や歌舞伎の要素を自作に取り入れてもきました。そのような背景を調査し、日本演劇および日本のイメージがどのように彼の芝居に用いられているかを明らかにし、日本演劇の要素を積極的に取り入れた演出で、日本あるいはアメリカ合衆国で彼の作品を上演する可能性を開くことは、国際的な演劇研究と文化交流に寄与するのではないかと考えています。

Q3

先生の研究分野にはどんな歴史(やエピソード)があるのですか。

アメリカ演劇という研究分野は比較的歴史の浅いものです。大学時代のゼミの授業で、初めてアメリカの演劇の作品に親しんだ時には、「真の意味でのアメリカ演劇は1910年代後半から20年代になってから始まった」と教えられたものです。それ以前のアメリカ演劇は、メロドラマや娯楽性のみを重視した作品が中心で、研究対象として真剣に論じられるほどのものはないと思われていたのです。しかし今では、19世紀のアメリカ演劇の中にも研究対象として興味深い、新しい分野を開拓していたものがあったということが認識されるようになり、学問分野としてのアメリカ演劇の歴史は長くなり、研究対象としての可能性も広がってきています。

Q4

先生が研究をすすめていくとき、とくにおもしろい、楽しい、と思われるのは、どういった時(点)ですか。

演劇の研究というと、通常はその台本を読むことが中心になります。しかし、実際舞台を観てみると、台本でセリフとト書き(登場人物のアクション、場面の状況、照明、音楽、装置などの指定をセリフの間に書き入れたもの)を読んでいただけでは想像もつかなかった要素が明らかになり、そのギャップはたいへん興味深いものです。たとえば、たいへん深刻だと思っていた場面が、実はコミカルで笑いを誘うものだったり、逆にコミカルだと思っていたセリフが悲しげだったり、ということは頻繁に舞台上で起こります。演出や役者の演技で大きく解釈が変わってくることがあるからです。そのような喜ばしい「驚き」を発見するために、だいたい年に一度はアメリカ(主にNY)に赴いて、観劇する機会を設けるようにしています。

Q5

研究をしていくうえで、一番大切なことは何だと思いますか。

あたりまえのようですが、長年研究を重ねてきても、まだ知らないことが多いということを自身で認めることだと思います。さらに、研究内容を様々な形で発表し、それによって多少なりとも世の中に貢献するものでなくてはならないと思います。年齢を重ね、研究歴も長くなってくると、「知らない」ということが言いにくくなったり、自分の守備範囲を超えて新しい分野に取り組むことが怖くなったりしますが、発表の機会があれば、常に新しい分野を開拓し、他の方々との共同研究の場に積極的に参加することで、少しでも自分の守備範囲を広くしていこうと日々考えています。