研究室の窓

「研究室の窓」は、経済学部教員がそれぞれの専門分野における自身の研究をQ&A方式で紹介していくシリーズです。本学の経済学部教員の専門分野・研究内容を知る端緒としてお読み下さい。

【第14回】  竹熊 耕一 先生

Q1

教育学の先生が、なぜ経済学部に所属しておられるのですか。

たいていの大学には、小・中・高の教員資格を学生に与えるための教職課程というプログラムがあります。全学部から希望者がこのプログラムに集まってきますが、その中のいくつかの科目を教える仕事のために自分は雇われ、たまたま経済学部に所属しているわけです。教職課程の専任に雇われている教員は本学にはあと2人いて、それぞれ違った学部に所属しながら、連携して教育活動を行なっています。

Q2

教職課程の先生は、授業をもつだけで研究はしなくてもよいのですか。

大学の教員である以上、研究には努めなければなりません。教職課程の専任教員として授業にあたる資格の中心は、その科目の分野に関する学術的な研究業績があるということで、文科省の中央教育審議会教員養成部会は、ことあるたびにわれわれの最新の研究業績をチェックします。将来の教員を養成するという大学の機能の部分で、きちんと学問的な裏づけをもった講義がなされているかどうか、常に教育行政の立場から監視されているわけです。

問題は自分の本当にやりたい研究テーマと、教員免許法という国の基準が定めている教育内容とがうまく重なるかという点です。さいわい自分の主たる担当科目が、免許法のいう「教育の理念並びに教育に関する歴史及び思想」をあつかうもので、大学、大学院で教育思想史を専攻し、これまでいくつか論文のようなものを書いてきた結果、文科省の審査もクリアできて、現在勤めています。

Q3

とくにどのような分野を研究しておられるのですか。

教養教育の思想史とでもいう領域で、主にイギリス、アメリカの中・高等教育に託されてきた、人間教育の理想の変遷がテーマです。「教養」「普通教育」「リベラル・エデュケイション」「人文主義教育」といったあたりがキーワードです。

Q4

もう少し詳しく。

教育が中等、高等と段階を上っていくと、教育の目的や内容が専門化され、場合によっては特定の職業と直結した技能の開発が中心になることが一般的です。しかし、どの段階の教育においても、知識が進展していくことが、その人の世界観、価値観、人生観を育て、個人として、あるいは社会人として真に豊かに生きることの意味を深めることこそが教育本来の意義であり、生きる術を得るだけの学習は一種の訓練にすぎないと考えられます。そうした観点から、知識と人間性の関係を論じた思想家たちの思想、あるいは学校制度に籠められた人間教育の普遍的な理念といったものを、英米について、細々と調べてきました。

Q5

そうしたテーマから、近年のトピックについて何か。

興味深いのは、大学教育政策をめぐる議論の中で、かつての高度な専門性よりも「学士力」「社会人基礎力」「人間力」といった一般的、汎用的な能力・態度・価値観の育成を期待する向きが有力になっている近年の傾向です。大学教育があまりにも大衆化し、もはやエリ-トの特性を学ぶ者すべてに要求することが無理になったので、教育の目的もこのように大衆化せざるを得なくなったのです。わが国ではそうして、実際は現実性の低い高等教育の一般教育化が叫ばれていますが、大衆化の先進国アメリカでは、伝統的な「リベラル・エデュケイション」の枠の中で「市民性」の涵養が改めて広く強調され、一定の合意を得ています。このあたりをもう少し調べて報告したいと考えています。