「研究室の窓」は、経済学部教員がそれぞれの専門分野における自身の研究をQ&A方式で紹介していくシリーズです。本学の経済学部教員の専門分野・研究内容を知る端緒としてお読み下さい。
Q1
そうなんですよ。社会学というのは広い領域をカバーしてます。簡単に言うと、「社会」にかかわる様々な現象のうち、経済学・経営学・法学といったわりと専門性の高い分野を抜いた、あと全部ひっくるめて対象としている、といった感じですね。そのなかで、それぞれの研究者がより狭い専門領域を持っているわけです。「社会学概論」は、学生の皆さんにとって何が大事な知識なのかという観点から話題を選んでいますので、高校で習った「現代社会」の発展版のような感じになっていると思いますよ。
Q2
一言ではちょっと難しいのですが、演劇とか映画といった文化的な表現を分析して、そこから同時代の社会や人間の心を読み解こう、という研究をやってきました。もちろん社会学的な関心や方法といったものがベースにはあるのですが、心理学的なものも含めてかなり学際的なものになってますね。たとえば最近、現代の香港の映画を分析した『愛の映画』という本を出版しました。これは学際的な手法を用いた映画論であるとともに、社会学的研究の可能性への冒険でもあるので、ぜひ読んでみてください。
Q3
ジャッキー・チェンはいいですよね。思い返せばそうですね、大学院生のころは、日本人の勤勉さとか道徳とかを研究しようと思っていたんですよ。これはマックス・ウェーバーの資本主義の精神についての研究の日本版みたいなもので、社会学のなかではオーソドックスなテーマですね。その関係で、近松門左衛門とか近世日本の演劇を観たり読んだりしていたら、そこには道徳とか「エートス」 ー ある程度の持続性をもった倫理的な信念・生活態度 ー みたいなものより、もっと人間的というか生々しい情感が表現されているのがわかってきたんです。演劇とか物語とか、そういった娯楽のなかには、恨みとか愛情や夢とか時代状況とか、実はいろいろなものがつまっていて、分析するとどんどんそれが見えてくるんですよ。勤勉倹約の精神の起源みたいに思われている亀岡ゆかりの石田梅岩だって、そう思って読み込めば、実はいろいろつまってるんですね。大学院時代の先生であった井上俊という人が「文化の社会学」の日本におけるパイオニア的な人で、不肖とはいえ先生の弟子のつもりだからこんな文化の研究でもいいかと思って、今みたいな研究になってきたわけです。文化の社会学的・心理学的な研究というのはいくらでも未開の領野が広がってますね。
Q4
物語の分析というのは本当におもしろいので、これからもずっと続けていくつもりです。香港映画もまだまだ研究したいし、台湾や中国本土の映画もとても好きなんですよ。日本を研究対象にしたものは、5年前に『隠された国家ー近世演劇にみる心の歴史』という本にまとめて出版しました。その後、ちょっと小休止しているのですが、この愛憎入り交じった母国の文化についてもいつも考えていますよ。いずれにせよ、私自身のライフワークと考えているのは、東アジアにおける、人間関係とか愛情とかが絡まった「心の歴史」のようなものなんです。これはずいぶん大きな話ですけどね。最近は中国の古典的な作品などを読み散らかしていて、まだまだ準備段階ではありますね。日本や香港は曲折のある川のようなものだけど、中華文明は無数の渦が渦巻く大海原で、気がついたら溺れかけてるといった感じです…。どうなるんでしょうね。