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 リーディングス現代社会(9)

「リーディングス現代社会」は、経済学部教員がそれぞれの専門分野に関連する現代社会のトピックを分かり易く解説していくシリーズです。経済・社会の動きを理解する道標として、また経済学部教員の研究を知る端緒としてお読み下さい。

為替レートの変動について

道和 孝治郎

近年,「100年に一度」といわれる大不況の中において,急激な円高が日本企業を苦しめています.その一方で,2~3年前までは,急激な円安により多くの日本企業は恩恵を受けてきました.特に,円建て取引の比率が高い自動車産業や電気機械産業の業績は,一般的に為替レートの変動に大きく依存するといわれています.為替レートの変動はなぜ生じるのか,特に,近年(その中でも2005年から2007年夏まで)の円ドルレートの変動は,どのような要因によって決まっていたのかということを今回は説明したいと思います.

まず,為替レートの一般的な変動を決める要因として,物価,金利,マネー,生産といったマクロ経済変数を挙げることができます.その中でも金利は,2005年から2007年夏までの円ドルレートの変動を規定した重要な変数であると考えられていて,金利と為替レートの関係を結び付ける関係式として,カバーなし金利平価式という関係式が存在しています.カバーなし金利平価式を示すと以下の関係式が成り立つ式のことをいうのですが,

(1+it)=(1+it*)(eet+1 / et)

今,国内(日本)の投資機会(例えば金利itの1年満期の国債)と海外(アメリカ)の投資機会(例えば金利it*の1年満期の米国債)があり,1万円をどちらかに投資すると考えたとき,左辺が国内の投資機会に投資したときの1年後の元利合計であり, (1+it)万円になるということを示しています.一方で,右辺が海外の投資機会に投資したときの収益を示しているのですが,米国債に投資するとき,まず1万円を現在(t期)の円ドルレート(et)でドルに変換し,そのドル資金で米国債を購入します.そして,1年後に元利合計は(1+it*)/et万ドルとなるのですが,再び円に戻すとき,今期に人々が予想した1年後の円ドルレート(eet+1)を使うと,収益は(1+it*)(eet+1/et)万円になります.国内の投資機会と海外の投資機会のどちらかに資金を投資するとき,2つの投資収益が無差別になるところで現在の為替レートが決まる上記のアプローチのことをカバーなし金利平価式といいます.(*1)

では,このカバーなし金利平価式を用いて,2005年から2007年夏までの円ドルレートの変動をどのように説明することができるでしょうか.2005年から2007年夏までの時期は,急激な円安ドル高の状態で円ドルレートが推移していたのですが,上記のアプローチでいうと,日本の金利がアメリカの金利を大きく下回り日米金利差が拡大する状況にあり,その結果,現在の円ドルレート(et)が減価するという状況にありました.(*2) さらに,現実にはカバーなし金利平価式が(少なくとも短期的には)成立しておらず,(アメリカの金利が日本の金利よりも高いため)ドル建て資産に投資する方が有利な状態になっており(式でいえば左辺<右辺),投資家にとってドル建て資産に投資する誘因が強く働きました.その結果,円を借り入れてその円を売ってドルを購入する行動を投資家は高めたため,カバーなし金利平価式が成立していない状況でも円ドルレートが大きく減価することになったのです.

上記のような低金利通貨で資金を調達し,高金利通貨に変換し,変換した通貨を用いて様々な変換した通貨建て資産に運用する取引のことを,「キャリー取引」あるいは「キャリートレード」といわれますが,2005年から2007年夏までの時期に関しては「円キャリートレード」が活発的に行われたために,円ドルレートが大きく減価しました.繰り返しになりますが,現実にはカバーなし金利平価式が成立しておらず,ドル建て資産に投資した方が超過収益が大きく見込まれるために「円キャリートレード」が行われ,そして,その超過収益の存在が新規の「円キャリートレード」という形で次々と新たな投資家を呼び込むことになり,円ドルレートの急激な減価を導いたのです.

以上までの説明が,2005年から2007年夏までの期間の円ドルレート変動の説明で,この時期の円ドルレートの変動は金利で説明することが可能であるということを説明しました.しかし,実際には為替レートは,金利だけでなく上述した物価やマネーや生産といったマクロ経済変数,また,マクロ経済変数だけでなく,災害や首相の発言といった経済以外の要因によっても影響を受けます.そのため,厳密に為替レート変動の決定要因について特定化することは困難なことですが,この時期に関しては,その他の要因があるにせよ,金利で十分説明可能であったということを理解して頂ければと思います.

*1:本文中に記載したように,カバーなし金利平価式は,将来の為替レートを人々が今期に予想した値(eet+1)を用いて定式化した式になっています(「カバーなし」といわれる理由は,将来の為替レートが予想した為替レートに必ず一致する保証はなく,外国通貨建て資産に投資したときの収益額が為替変動リスクにさらされる可能性があるので,リスクを完全にカバーできないという意味で「カバーなし」という言葉が使われます).そのため 将来の為替レートは今期の予想値なので外生的なものとして取り扱うと,カバーなし金利平価式は両国の金利(it,it* )と現在の為替レート(et )の関係式になっています.即ち,上式をit -it*=(eet+1-et) /etと近似して示すことができるのですが,日本の金利がアメリカの金利を下回れば下回るほど(日米金利差が拡大すればするほど),現在の円ドルレート( et)が円安ドル高に動くことを意味しています.

*2:図で示したとおり,日米の政策金利(日本:コールレート,アメリカ:FFレート)という足元の金利ではありますが,急激な円安ドル高の背景で日米金利差が拡大する状況を見て取れることが分かります.

データ出所
円ドルレート,コールレート:日本銀行
FFレート:Federal Reserve Bank of St. Louis

道和孝治郎(経済学部専任講師)


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