リーディングス現代社会(1)

「リーディングス現代社会」は、経済学部教員がそれぞれの専門分野に関連する現代社会のトピックを分かり易く解説していくシリーズです。経済・社会の動きを理解する道標として、また経済学部教員の研究を知る端緒としてお読み下さい。

最近のガソリンや食料品の値上げラッシュはどうして? -資源経済学入門-

内藤 登世一

ここ最近、様々な工業製品や食料品の値上げが相次いでいます。ガソリンの値段が、最近170円近くになったことは、誰もが知るところでしょう。その他にも、ここ半年ほどの間に、食パンは平均約16%、カップめんも平均約10%、牛乳も平均約7%が値上げされました。さらに、菓子、食用油、バター、包装用サランラップなども値上げされています。

これらの値上げはなぜ起こっているのでしょうか。それにはまず、私達の経済や社会の仕組みを振り返る必要があります。私達の経済社会では、毎日様々な工業製品や食料品が生産され、それらは市場で売買され、多くの人々に消費されています。しかし、工業製品や食料品の生産には、地球の環境から採取された原油や石炭、農業によって生産された小麦やトウモロコシなど、原料資源の投入が不可欠です。したがって、生産された工業製品や食料品の値段は、生産に投入される原料資源の価格にもっとも影響されます。

最近の工業製品や食料品の値上げの根本的な原因は、こうした原料資源(例えば食料資源としての小麦や大豆やトウモロコシ、また鉱物資源としての原油や石炭)の価格の高騰なのです。実際に、過去3年間に小麦の価格は3.5倍、大豆は2.5倍、トウモロコシは3倍に上昇しています。鉱物資源でも、過去4年間に石炭の価格は5.5倍、原油の価格はなんとこの1年で8割も上昇しています。現在のガソリンスタンドでのガソリンの価格が170円近くにまで上昇しているのは、当然なことですね。


それでは、これらの原料資源は、どうしてこんなにも高騰しているのでしょうか。まず一番大きな理由は、中国、インド、ブラジル、ロシアといった新興国の経済発展からくる爆発的な原料資源への需要拡大です。人口約30億人(4ヶ国合計)を抱える新興国が工業化過程に入ったことで、エネルギー需要は増大し、その原料資源としての原油や石炭への需要は著しく上昇しています。また、新興国が豊かになることで、食事の欧米化が始まり、小麦の需要も押し上げています。  

一方で、原料資源の需要拡大の理由には、環境問題も大きく関係しています。近年CO2の削減のための自動車燃料として、バイオエタノールの需要が高まっています。そのために、生産に必要な原料向けのトウモロコシ需要が急増し、食料向けのトウモロコシの供給が不足して、その価格が上昇しています。さらに、原料向けのトウモロコシの需要高の影響を受けて、小麦や大豆からトウモロコシに転作が進み、小麦や大豆の価格までも上昇しています。

原料資源に対する需要拡大以外にも、原料資源の価格を高騰させる原因があります。米国では昨年度のサブプライムローン問題(住宅ローンの借り手は、住宅価格の上昇分を担保にして金利の安いローンへの借り換えが可能であったが、住宅価格の頭打ちでこれができなくなり、返済の延滞や差し押さえが増え、その結果金融不安が起こっている問題)以降、金融緩和政策(景気の後退を防ぎ、その回復をはかるために、中央銀行が利子率を下げるなどして、金融市場での資金需給の関係を調節して、資金の調達を楽にする政策)が実施されました。そのために、不安の大きい金融商品を売って、より安全な金融商品を購入しようと、原油や穀物の先物市場に大量の投機マネーが流入しました。このことが原油や穀物の価格を高騰させているのです。さらに、原料資源を産出するアラブ産油国では、ここ数年原油を採掘する会社同士の合併や買収が相次ぎ、市場の寡占化(数社で市場を独占する)が進んでいます。そのために、少数の会社が市場を支配して、原料資源の価格を高くコントロールする傾向がみられます。

私達を取り巻く経済社会は、本当に複雑です。そこでは、様々なものが絡み合って、それぞれが影響を及ぼしあっています。原料資源の価格が上昇すると、それから生産される食料品や工業製品の価格も影響を受けて上昇します。身近な食料品や工業製品の値上げの理由を知るためには、経済社会の仕組みを深く理解することが必要です。経済学とは、この経済社会の仕組みを学び、経済社会の問題点を明らかにして、その解決のための経済政策を提供する学問なのです。

(2008年7月)

内藤 登世一(経済学部教授)