リーディングス現代社会(2)

「リーディングス現代社会」は、経済学部教員がそれぞれの専門分野に関連する現代社会のトピックを分かり易く解説していくシリーズです。経済・社会の動きを理解する道標として、また経済学部教員の研究を知る端緒としてお読み下さい。

サブプライムローンについて

宮川 重義

サブプライムローンとはアメリカで考え出された、信用力の低い人(所得の少ない人)向けに貸出される住宅ローンのことです。アメリカと言えばみんな広い敷地のある住宅に住んでいると思うかもしれませんが、決してそうではありません。とくにマイノリティと言われる人たちは劣悪な住居生活を強いられているのが実情です。もちろん、これはアメリカ政府にとっても頭の痛い課題でした。そこにこのような、サブプライムローンが政府の後押しもあり、急激な拡大を遂げるのです。もちろん、その背後には2001年のITバブル崩壊後の大幅な金融緩和があります。住宅価格は金融緩和によって急上昇を始めました。住宅価格の高騰はこのローンの拡大を支えました。なぜなら、このローンは信用力の低い人向けですから、将来返済できない、つまり不良債権になるリスクが非常に高いわけですが、住宅価格が上昇している限り、その住宅を売却すれば貸し手も損を被らなくてすみます。また、このローンの特徴は当初1年目は7%と比較的低利に抑えてあり、その後毎年少しずつ上昇し、例えば4年後には倍の14%になるというような金利設定がなされています。所得の低い人にとって14%は非常に高く負担が大きいです。しかし、住宅価格の上昇を前提にすれば、数年後に金利が上昇した時点で上がった担保価値によって再度新たな住宅ローンを借受け、前の住宅ローンを返済することができるのです。このような借換えを繰り返せば住宅ローン返済が滞ることはあり得ないのです。しかし、このようなマジックが成り立つのはあくまでも住宅価格が上昇し続けることが大前提です。

ところが、2006年夏を境にそれまで上昇し続けていた住宅価格が下落に転じ始めたのです。アメリカ各地でサブプライムローンの焦げ付きが始まりました。それならば、サブプライローンを提供した金融機関が不良債権を抱えることで問題は終わりのはずです。少なくともその問題はアメリカ国内の不良債権問題として収束したはずです。しかし、そうはならずにその影響がヨーロッパをはじめ世界各国に影響を及ぼすことはなったのです。そこに、このサブプライムローンの大きな問題があるのです。

この問題を理解するためには証券化ということを知る必要があります。証券化というのは銀行が貸付債権を担保にして証券を発行して投資家に売却することです。したがって、借り手が返済不能に陥ったとしてもそのリスクは投資家に移るわけです。この証券は資産が担保ということで、資産担保証券(Asset Backed Securities: ABS)と呼ばれます。住宅が担保であれば、その証券は住宅貸付担保証券(Mortgage Backed Security:MBS)と呼ばれます。今回の問題をさらに複雑にしているのは、このMBSを担保にいくつかの債券が組み合わされ再証券化がなされていることです。この再証券化された証券が債務担保証券(Collateralized Loan Obligation:CLO)と呼ばれます。なぜ再証券化されるかというと、MBSだけでは非常にリスクが高く、したがってその格付けも非常に低く、例えば、BBBクラスにしかなりません。つまり、ハイリスク、ハイリターンの金融商品です。しかし、そこに非常に安全性の高い証券を混ぜることによって、MBOのリスクを薄めた、AAAと判断されるようなCLOというローリスク、ハイリターンの理想的な金融商品が生まれるわけです。ちなみに、証券は格付け機関によって、AAA,AA,A,BBB,BBなどというように信用力の高い順に格付けされます。AAAは一番安全な金融商品というお墨付きをもらったわけです。これが多くの投資家に魅力ある金融商品として購入されたのは当然のことです。このようにさまざまな金融商品を混ぜることによって新たなリスクの低い金融商品を生み出すのが金融工学の力です。金融工学の知識を駆使すれば、錬金術も可能であると信じられていた矢先の今回の問題です。サブプライム問題は金融工学も万全ではないとうことの証しになりました。今回の件では格付け機関も問題になっています。格付け機関自身もCLOの根源に潜む住宅価格に認識の甘さがあったのではないかとも言われています。証券化のプロセスが理解しやすいように下に図をつけておきますので参考にしてください。

サブプライムローン問題の拡大はなお続いています。これまで、政府系だから安心だとして、ファニーメイやフレディマック(政府系支援機関;GSE)が保証、発行する住宅ローン担保債券(MBS)市場は落着いていましたが、最近になって両機関の株価が急落し、アメリカ金融システムに大きな衝撃を与えています。紛らわしいのですが、両機関はともに民間企業です。両機関の保証、発行するMBSは5兆2千億ドルにもなり、そのうち、1兆5千億ドルが海外の金融機関、投資家によって保有されていると言われています。ちなみに、わが国の金融機関では、農林中央金融公庫が5兆5000億円、三菱UFJが3兆3000億円、みずほが1兆2000億円、三井住友が2198億円、それぞれ保有しています。もし、両機関にもしものことがあれば大変です。まさに、アメリカ発大恐慌の再来となるでしょう。

 しかし、私はそうは思いません。アメリカという国は実に危機管理に長けた国です。大恐慌および日本の長期不況についても実に謙虚に学習しています。その証拠に本年3月のベアー・スターンズの経営破綻にさいしては政府、中央銀行が協力して大量の流動性注入を実に早いタイミングで実施しました。わが国では公的資金導入が非常に遅れたのとは対称的です。今回の両機関に対しても積極的な救済策が講じられることは確実と思います。また、このような金融の時事問題に関心のある人は私のゼミのHPでもQ&Aの形で解説していますので参考にしてください。


図 証券化のプロセス

(2008年8月)

宮川 重義(経済学部教授)

宮川ゼミ・ホームページ