リーディングス現代社会(3)

「リーディングス現代社会」は、経済学部教員がそれぞれの専門分野に関連する現代社会のトピックを分かり易く解説していくシリーズです。経済・社会の動きを理解する道標として、また経済学部教員の研究を知る端緒としてお読み下さい。

少子高齢化とそれに関わる諸問題

平田 謙輔

「少子化」、「高齢化」。この言葉を新聞・テレビなどで見聞きしない日はないと言ってよいほどでしょう。少子高齢化は先進諸国にほぼ共通して見られる現象ですが、日本ではその傾向が特に顕著ですので、そこから受ける影響もきわめて深刻です。

そこでまず、少子化とはどのようなことなのかを見ておきましょう。少子化とは文字通り言えば子どもが少なくなることですが、もう少し詳しく言うと、合計特殊出生率(しばしば「1人の女性が一生の間に産む子どもの数」と説明されます)が人口置換水準(人口が一定に保たれる出生率の水準)とされる約2.1を下回る状況にあることを指します。

日本の合計特殊出生率は、1940年代後半の第1次ベビーブームの頃には4を大きく超えていました。その後、1950年代には急激に低下しましたが、それでも1960年代から1970年代前半までは概ね人口置換水準を少し上回る値で比較的安定していました。しかし、1974年以降は現在まで30年間以上に渡って人口置換水準を下回り続け、2005年には過去最低の1.26にまで落ち込んでいます。また、生まれてくる子供の数もこの間に大きく減少しました。近年の出生数は年間100万人余りですが、これは第1次ベビーブームの頃のおよそ4割、1970年代前半の第2次ベビーブームの頃の半分ほどにすぎません。その結果、明治以降ほぼ一貫して増加してきた日本の人口は、2005年からついに減少を始めています。

次に、高齢化についてはどうでしょうか。一般に、高齢者とは65歳以上の人のことを指し、高齢化とは総人口に占める高齢者の割合(高齢化率)が上昇することを言います。高齢化率が7%を超えた社会を「高齢化社会」、14%を超えた社会を「高齢社会」と呼ぶことがありますが、日本の高齢化率はそれをはるかに上回る20.2%(2005年)になっています。

日本の高齢化の特徴の一つは、それが非常に急速であるということです。日本で高齢化傾向が見られるようになった時期は、実は他の先進諸国と比べると遅く、高齢化率が7%を超えたのは1970年のことでした。しかし、その24年後の1994年には早くも14%を超えています。これを諸外国と比較すると、高齢化が早くからゆっくりと進んだフランスでは115年間(1864年~1979年)、比較的急速に進んだドイツでも40年間(1932年~1972年)かかったということですから、日本の高齢化がいかに急速であるかが分かります。

しかも、少子化が続き若年者の人口が減少することで、すでに世界最高水準にある日本の高齢化率は今後もかなり長期に渡って上昇を続け、2055年には40.5%にまで達すると予想されています。高齢化率がここまで上昇すると見られている国は、他にありません。

また、後期高齢者(75歳以上の高齢者)の増加が著しいということも、日本の高齢化を考える上で重要な点です。現在はまだ前期高齢者(65歳から74歳までの高齢者)の人数が後期高齢者の人数を上回っていますが、2017年にはそれが逆転すると予想されています。そして、2055年には後期高齢者が総人口の26.5%、2,400万人近くに達すると見られており、この数字は、割合では現在の高齢化率を超え、人数でも現在の高齢者全体の数に迫るものです。

こうした少子高齢化が私達の社会にもたらす影響は多方面に渡りますが、その中でも特に大きな問題となっているのが社会保障、より具体的には年金、医療、介護などの制度です。まず年金について見ると、現在、日本の公的年金制度は、世代間扶養と言って、現役世代の人達が支払った保険料が高齢者への給付に充てられるという仕組みを基本としています。したがって、高齢化率の上昇は、現役世代の負担の増加(または高齢者への給付の引き下げ)ということにつながります。医療については、高齢者だけが利用するわけではありませんが、年齢が高まるほど1人当たりの医療費も上昇しますから、高齢者(特に後期高齢者)の増加は医療費全体を引き上げることになります。介護についても似たようなことが言えます。平均寿命の伸びとともに介護を必要とする高齢者が急速に増えて、介護サービスの利用者も増加しているのです。これらにともなって社会保障給付費は年々増加の一途をたどっており、今後もこの傾向が続くことは避けられないと見られます。

このように社会保障を取り巻く状況はきわめて厳しいのですが、社会保障は私たちの生活に欠くことができないものですから、それが安定し持続するよう、これまでもいくつもの改革(給付と負担のあり方の見直しなど)が行われてきました。しかし、残念ながらそれでも社会保障の将来への不安が拭い去られたわけではなく、今も様々な議論が続けられています。しかも、少子化がさらに進めば高齢化が加速され、社会保障の困難はいっそう深刻になるでしょう。それどころか、人口減少が続けば、いずれは日本社会が崩壊の危機に直面する日が来るかもしれません。したがって、今後はこれまで以上に少子化対策にも力を入れる必要があるでしょう。

ところで、ここまでの話について、どこか他人事のような気がしている人もいるのではないかと思います。しかし、上でも見たように、日本では高齢化率が少なくとも今世紀半ばを過ぎる頃まで上昇を続け、2.5人に1人が高齢者という時代が来ると予想されています。つまり、あなたがもし今10代後半ならば、日本の高齢化率はあなたの年齢とともに上昇を続け、高齢化率がピークを迎える頃にあなたも高齢者の仲間入りをすることになります。そう考えると、少子高齢化とそれに関わる諸問題は、決して他人事ではないと感じてもらえるのではないでしょうか。


各年齢層が総人口に占める割合の推移

平田 謙輔(経済学部准教授)