あの人がマニアックな研究に目覚めた理由 Vol.4「会計学とおもしろい日本の経営」

あの人がマニアックな研究に目覚めた理由  Vol.4「会計学とおもしろい日本の経営」

「大学の先生って、『なんでそんなマニアックな道を極めちゃったの?』って感じの人、たまにいません? 僕、そういう人たちのことが気になるんですけど」。ふとした疑問を京都学園大学に投げかけたライターのカツセマサヒコさん。

「じゃあ、実際に聞いてみたら?」ということで、京都学園大学の先生に「どうしてその研究に目覚めたの?」と尋ねる企画を始めることになりました。 第四回は、会計学を研究されている、付 馨(ふ・けい)先生です!

とっつきにくい「会計学」を身近に感じる方法

カツセマサヒコ

先生、事前に言っておきますが、僕は算数・数学が大の苦手なので、「会計学」って響きを聞いただけで頭皮から全ての毛が抜け落ちてしまいそうです。

付 馨先生

苦手意識を持つ方は、多いですよね(笑)。でも「会計」には、企業の情報を関係者に提供する大事な役割があるんです。

カツセマサヒコ

どうせ「財務諸表」の話とかが出てくるんですよね? 想像しただけで後頭部からハゲが始まりそうですよ?

付 馨先生

じゃあカツセさん、たとえばiPhoneを作っているAppleが、企業内部でどんな活動をしていて、その成果がどのようになっているのか、なんとなく気になりません?

カツセマサヒコ

それは、ちょっと気になります。

付 馨先生

でしょう? 財務会計によって、「この会社は、こんなに頑張っているんですよ」という1つの成果を、数字で表すことができるんですよ。そう考えたら、楽しくなりませんか?

カツセマサヒコ

たしかに、ちょっとだけ面白そうです。

カツセマサヒコ

でも、それを見るためには「キャッシュフロー」がどうとか、「貸借対照表」がどうとか、もう1個、なんでしたっけ……?

付 馨先生

「損益計算書」?

カツセマサヒコ

そうそうそう! とかが必要になるわけでしょう……?

付 馨先生

伝統的には、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書の三つで見ますね。でも、最近の会社は「お金や数字で表せられる価値」の割合が減ってきているんですよ。

カツセマサヒコ

と、言うと?

付 馨先生

たとえば、企業にすごく優秀な人材がいたとき、彼らが持っている知識やスキルは、その場で数字にできなくても将来役に立つ重要な資産ですよね?

カツセマサヒコ

たしかに。それを言ったらIT企業なんて、PCひとつしかないですもんね。製造業よりも価値とか付けにくそうだ。

付 馨先生

そうそう。このような傾向を持った企業は、どんどん増えてきています。でも、自社に投資してもらうには、なんらかの価値があることを示さなければいけない。そこで、「知的資産情報」や「統合報告書」といった、新たな基準にできそうな会計手法が注目されてきており、それを研究するのが、私の仕事なんです。

カツセマサヒコ

すごい。急にわかった気がしてきました。

日本の経営って、実はすごい

カツセマサヒコ

先生は、中国ご出身ですよね? 今の日本企業なんて「働き方」にしても「女性の社会進出」にしても、世界的に見て遅れていて面白くないんじゃないですか?

付 馨先生

みんなそう言うんですが、実は日本の経営は、世界でも有名なんですよ。

カツセマサヒコ

そうなんですか?

付 馨先生

学生時代に国際経営を勉強していたのですが、大きな経営の考え方は「日本」と「アメリカ」の2つに分けられます。

カツセマサヒコ

え、日本ってそんな特殊なんですか?

付 馨先生

アメリカはコストをとことん下げて儲ける「科学的管理」のイメージですが、日本は「人本主義」的な経営をしています。

カツセマサヒコ

「人本主義」?

付 馨先生

人を基にして企業経営を行うことです。お金だけではなくて、「従業員が安心して働けるように」とか「顧客に最大のおもてなしを与えられるように」とか、そういう考え方を重んじる。今では当たり前かもしれませんが、実は日本発祥なんですよ。

カツセマサヒコ

知らなかった。中にいると分からないものですね。

カツセマサヒコ

でも先生、僕は旧来の日本企業が抱える「終身雇用」「年功序列」の人事制度が大嫌いだったんですよ。

付 馨先生

どうしてですか?

カツセマサヒコ

若い人がいっくら頑張っても評価されないし、お給料も上がらないからです。あれじゃあ、能力のある人は辞めていきます。

付 馨先生

そうですね。でも、だからと言って日本の伝統的な年功序列の仕組みそのものが悪いとは、言い切れません。

カツセマサヒコ

そうですか?

付 馨先生

短期的には成果主義の方が利益を出すかもしれないけれど、会社の長期的な発展を考えるときに、みんなに安心して働いてもらえないと、企業は長続きしないですよね。

カツセマサヒコ

それはまあ、そうですけど……。

付 馨先生

アメリカでは、みんなどんどん転職して会社を変えます。それはそれでストレスが溜まって、社会問題に繋がる可能性も、なくはないのではないでしょうか。

カツセマサヒコ

“精神的な安定”って意味では、すごく大事ってことですね? それゆえの日本の治安の良さかもしれないのかなあ……。

付 馨先生

欧米的な成果主義は、いきすぎると格差を助長することにもなりますから。それによって治安が悪くなるという考え方も、できなくはないと思います。そういった意味で、日本古来の経営手法というのは、ひとつ注目されている分野ではあるんです。

カツセマサヒコ

なるほどー。認識を改めようと思いました。

会計に興味を持った理由

カツセマサヒコ

先生が会計学に興味を持ち始めたのは、いつごろなんですか?

付 馨先生

興味を持ち始めたのは、大学院に入ってからなんです。学部時代は、国際経営を勉強していました。

カツセマサヒコ

どうして会計学に方針転換を?

付 馨先生

本当に夢がないんですが、会計という学問を学べば、仕事に困らないと親から言われたんです。

カツセマサヒコ

国際経営学だって、仕事にはなりそうなのに……。

付 馨先生

日本は資本主義の歴史が長いから、経営学があたりまえのように感じると思いますが、1970年代末までの中国は市場経済ではなく、計画経済。私の親の世代は国から「これを作ってこれを売って」と指示されたものだけで経済を回していたので、各企業に「会計学」は必要でも「経営学」が必要という発想には至らなかったんです。

カツセマサヒコ

そうか、国の習慣の問題か! めちゃくちゃリアルな背景ですね、それ。

付 馨先生

そうですね。自分の親からすると当時は「経営者になるわけじゃないのに、なんで国際経営を学ぶんだ?」って疑問に思ったみたいで、経営学を勉強することに、反対もされていました。

カツセマサヒコ

さらに遡りますが、そんな国の情勢もあるのに、国際経営に興味を持ったのは何故なんですか?

付 馨先生

私、ミーハーなんですけど、当時は「MBA」って肩書きが流行っていたんです(笑)。香港のドラマの中でも、いつも「ハーバードのMBAを卒業した」とかステータスとして書かれていて……(笑)

カツセマサヒコ

想像以上にライトな理由で笑います。

付 馨先生

そうそう。中国では70年代の終わりくらいに改革開放して、少しずつ民営化が進み、私が大学受験した90年代の始めごろは、市場経済が一気に加速していくタイミングだったんですよ。

カツセマサヒコ

じゃあ時代の流れもあって、経営学を学ぶことになったんですね。

付 馨先生

はい。「かっこいいな」くらいの気持ちで始まりました(笑)

カツセマサヒコ

大学卒業後、就職せずに大学院に行った理由は何だったんですか?

付 馨先生

もっと勉強したい気持ちがあったのと、日本に留学したかったので。

カツセマサヒコ

そこで日本に来るタイミングがあったんですね。なぜ、日本に?

付 馨先生

ひとつは、最初に話したとおり、日本の経営モデルに興味があったから。もうひとつは、もともと日本の文化が好きだったからです。

カツセマサヒコ

日本の文化って、具体的にどのあたりが……?

付 馨先生

たとえば、囲碁とかお茶とかお花。そういったものは、中国から入ってきた文化が日本的にアレンジされて、定着・発展させてきた親近感があります。私の小さいころは中国はそんなに裕福ではなかったので、伝統文化を大事にしようと思っても、普通の人にはできなかったんですよね。

カツセマサヒコ

そうか、伝統を重んじるって、それなりに余裕がないとできないことなんですね。そう考えると、先生がいま「京都」にいる理由がすごく納得いきますね。

付 馨先生

でしょう? この街には、たくさんの伝統が残っていますから。

これから教えたいこと

カツセマサヒコ

先生が学生に教えている講義内容は、どのようなものなんですか?

付 馨先生

学部生への講義は伝統的な会計・簿記しか教えていないんです。

カツセマサヒコ

じゃあ講義名も「簿記」?

付 馨先生

そう、簿記原理。今年の4月に来たばかりなので、あとはゼミしか担当していません。そのうち、財務会計や企業分析といった講義も持ちたいと思っています。

カツセマサヒコ

学生のうちでも、勉強していたら企業の財務諸表から、経営状況を読み解くことができるようになりますか?

付 馨先生

もうちょっと上のレベルの財務会計・管理会計までいくと、「なぜこの収益が生まれたか」「この企業は危なくないのか」「将来的に投資する必要はあるのか」、学生でいうと「就職先でここに入って危ないことはないか」といった企業の状況を分析する講義になります。

カツセマサヒコ

一気に有用性が上がりますね!

付 馨先生

基本的には、一般的かつ伝統的な会計学についての勉強がメインですけどね。でも、基礎的な要素が身に付いたら、最新の環境会計とか国際会計とか、もしチャンスがあれば冒頭に話した統合報告書の話もするかもしれないですね。

カツセマサヒコ

とっつきにくいテーマだと思ったのに、かなり身近に感じられました。ありがとうございました!

おわりに

「既に『統合報告書』の発展は世界中で行われていますので、日本もそれに乗っていくしかない状況ではあります。でも、『統合報告書』自体、誕生して10年足らずの新しい報告書なんです。新しいものについては会計学者も慎重にならざるを得ないので、いまだに賛否両論。だからこそ、面白い研究テーマだと思っています」と話す付馨先生。

「会計学」なんて算数の時点で若干苦手意識があった僕には全く憧れない世界だと思っていたのですが、今回の話を伺っていると、それを知っていることで企業そして現代社会の見えない部分が見えてきそうな気がして、なんだか羨ましく思えました。

実際、就職活動でも使えそうな知識ですし、「面倒そうに見える計算も、蓋を開けてみれば文系学生だってできるシンプルなものばかり」とのことなので、学部学科選びに迷っている人は、チャレンジしてみてはいかがでしょうか!

今回お話を聞かせてもらった先生

付 馨先生

付 馨先生

中国・瀋陽市出身。神戸大学大学院経営学研究科会計システム専攻博士後期課程修了。博士(経営学)。公立大学法人公立鳥取環境大学経営学部、同大学院環境経営研究科准教授を経て、現職。専門分野は「財務会計」「知的資産会計」「統合報告」等。

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経済学科

大学院 税理士養成コース

カツセマサヒコ
カツセマサヒコ

フリーライター。1986年東京生まれ。編集プロダクション・プレスラボでのライター経験を経て、2017年4月に独立。
広告記事、取材記事、エッセイ、物語等の企画・取材・執筆を行う。
Twitterでの恋愛・妄想ツイートが10~20代前半の女性の間で話題を呼び、フォロワーは現在9万人を超える。
趣味はTwitterとスマホの充電。

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