“マーケティング”の力で幸福を作る? 袖川先生にお話を聞いてみた

“マーケティング”の力で幸福を作る? 袖川先生にお話を聞いてみた

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みなさん、こんにちは! ライターのさえりです。

突然ですがみなさんにクイズです。

2016年に国連が出した「世界幸福度報告書」。調査対象者に「今の自分の生活クオリティ」を10段階で評価してもらうという調査方法で157カ国の人にアンケートをとっているそうですが、日本の幸せ度は157カ国中何位にランクインしていると思いますか?

正解は、53位です。

……53位ですよ、53位。(参考:Platnews 世界幸福度報告書2016--日本は本当に幸せな国?

これだけ裕福でこれだけ物資に恵まれていて争いごとも少ない日本の幸福度が53位というのは、低くないでしょうか……?
(ちなみに1位はデンマーク、2位はスイスです)

事実、先進国の中では最下位なのだそう。

でもそもそも「幸福」ってなんだろう? そして「幸福」を高めていくにはどうしたらいいんだろう? ……というお話を、京都学園大学・教育開発センターにて幸福を研究している袖川芳之先生に伺ってきました。

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袖川芳之先生

大阪府出身。京都大学法学部卒業後、(株)電通に入社。マーケティング局を中心に、電通総研に長年勤務。その間、大蔵省(当時)関連の社団法人 研究情報基金への出向、内閣府経済社会総合研究所政策企画調査官なども経験し、政府や政策にも詳しい。電通総研では研究主幹としてヒット商品やトレンドの研究に携わる。「コピーライター以外、電通でやりたいことはひととおり、やったかな」と早期退職し、2015年より現職。

さえり

今日はよろしくお願いいたします!

袖川先生

よろしくお願いします。

「幸せ」ってなんですか?

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さえり

幸福について研究していると伺ったのですが……、

袖川先生

ええ。研究しています。正しく言えば、日本人の「幸福度」を高めるためにどうしたらいいか、の研究をしているという感じですね。

さえり

日本の幸福度が53位だと知ってちょっとショックでした。客観的に見れば、日本はすごく恵まれていると思うんですが……。

袖川先生

そうですね。日本人は今、幸福を感じづらくなっているのかもしれません。所得も、物資も、恵まれているのに「幸福」と思いづらいんですよね。

さえり

なるほど……。なぜなんでしょうか……。というよりも「幸福」ってなんでしょうか……。わたしの幸福はどこにあるんでしょうか……。

袖川先生

急に質問が多すぎですね(笑)。ひとつずつお話させてください。

袖川先生

そもそも僕はマーケティングの専門なので、哲学的に「幸福」を扱っているわけではないんです。「日本人がどうすれば幸福になるか」を「マーケティング」の視点を使って研究しています。

さえり

なるほど。でも先生はなぜ「幸福」を研究することに……?

袖川先生

僕はもともと「コピーライター」志望だったんです。CMやコピーがすごく好きで。それで電通に入社したんですが、配属されたのはクリエイティブ部門ではなくてマーケティング部門だったんです。

袖川先生

そして内閣府に出向されて。幸福について研究することになったんですよね。

さえり

最後が急カーブ!(笑) 内閣府でお仕事されてたんですね!

袖川先生

そうですね。クライアントが自民党だったりしてね。本当は、タレントと一緒にハワイにロケに行ったりする仕事に就きたかったんですけど(笑)、いつのまにか「研究」や「調査」がメインの仕事になっていましたね。

袖川先生

そこで日本人の幸福度をどう上げていくかとか、そもそも「幸福」と感じているかどうかとか、そういったことを研究・調査していたんですが、政府は「不幸をどうなくしていくか」を考えようとしているんですよ。

袖川先生

でも学んでいくと、幸福の反対は不幸ではないとわかってきたんです。

さえり

幸福の反対は不幸ではない……?

袖川先生

そうです。幸福の反対は、退屈すること、無気力になること、無力感を感じること。この三つなんです。

袖川先生

退屈っていうのは、時間を持て余してしまうこと。無力感っていうのは他人に影響力を感じなくなったり、自分の居場所がなくなったりして人生の手ごたえを感じないこと。そして、無気力は人生の目標を失うこと。これが幸福ではない状況なんです。

袖川先生

逆を言えば、退屈せず、他人に影響力があって、人生に目標があれば「幸福」と言えるかもしれませんね。

さえり

なるほど……。

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袖川先生

それで僕は、もともとの「マーケティング」の分野を活かして、日本人の“不幸をなくす”んじゃなくて“幸福を作りたい”と思うようになって。

それで今、学生たちにも「社会をよくして幸福を作るためにどうしたらいいか」といったことを教えています。

さえり

ふむ……。でも幸福を作るっていうのは難しそうな気がするんですが……。

袖川先生

そんなことないですよ。大きなことを変える必要は無いんです。幸福を作る鍵は、「アイデア」にあると僕は思うんです。

さえり

アイデア、ですか?

袖川先生

少しずつお話していきますね。

幸福はアイデアで作っていく

さえり

そもそも、「マーケティング」の考え方をつかって「幸福を作る」っていうのにもいまいちピンときていないんですが……。マーケティングって聞くと、どうしても「ものを売るための市場調査」みたいなイメージがあって。

袖川先生

それは古いマーケティングのイメージですね。

さえり

えっ、古い!

袖川先生

そうです。当初は、「マーケティング」というのは大量生産したものを欲しい人にどうやって結びつけるかを考える時に用いられていたんです。けれど、みんなに情報がたくさん入るようになって、欲しい物は自分で探すことができるようになりましたよね。

それでバブルの頃には、マーケティングで「物を欲しくさせるように欲望を創造しよう」ってなったんです。物の紹介じゃなく、“ライフスタイルの提案”をして「こんな生活をするためにはこれを買おうよ」って。消費者に「物を買ったその先にある夢」を見させるようにシフトして、「必要最低限のものを買う」の一歩先にいる人たちにアプローチをはじめたんです。

袖川先生

けれどバブルが崩壊して、みんな物を買わなくなって……。次のマーケティングの役割は、「社会課題を解決するための購買活動」を促すことだったんですね。「環境をよくする製品をつくって、その良さを伝えて買ってもらう」ように、消費によって社会を良くしていこうという段階にきています。

さえり

ふーむ。それでは、いまの時代の「マーケティング」ってつまり何なんでしょうか……?

袖川先生

マーケティングは「社会をいかに生きるに値する場所にするか」ってことだと思うんです。

さえり

いかに生きるに値する場所にするか……?

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袖川先生

そう。昔ね、「オリンピックがなければただの夏でした」っていうコピーがあったんです。オリンピックがあってもなくても、夏を過ごすことはできる。でも、そこでオリンピックという、「山」があればその人の人生は豊かになりますよね。

袖川先生

それに、今回2020年オリンピック・パラリンピック大会の東京への誘致が決まりましたが、あれで「それまでは死ねない」と言い出すお年寄りが増えたり、実際にアンケートを取ってみると「生きる目標ができた」と答えたりする人の割合もグッと増えたんです。

さえり

なにかの企画で、人の人生が豊かになるってそういうことなんですね……。

袖川先生

はい。何かを起こして、その人の人生を豊かにする。つまり「生きるに値する場所にしてあげる」。これが社会をよりよくするために、ひいては日本人の幸福を作るために求められているマーケティングだと僕は思うんです。

さえり

なるほど……。

袖川先生

それに、マーケティングをつかって企画をする人が増えることで社会がどんどん変わっていく、ということをみんなが実感すること、それも幸福を作るうえでとても大切なことだと思っています。

袖川先生

小さなアイデアで社会が変わる。それを知ってもらって、日本の人たちに無力感から脱してもらいたいというか。

さえり

なるほど。そういう体験を通して幸福度を高めていきたい、ということですね。

さえり

でも具体的にどんな風にマーケティングで世の中を変えていけるんでしょうか……。

袖川先生

さえりさんは、ナッジって知っていますか?

さえり

し、知らないです……。教えて下さい。

アイデアが社会を変える!「ナッジ」って?

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袖川先生

世の中をマーケティングでどう変えていけばいいか? ということですが、「ナッジ」という手法があるんです。英語では、肘でつついて行動を促す行為のことをナッジっていうんですけどね、幸福学の中ではみんなが幸せになるように社会をデザインしよう、ということなんです。

さえり

ふむ……?

袖川先生

例をお話しますね。

袖川先生

「アムステルダムの空港の男性用トイレが汚くて、清掃費にかなりのお金がかかっている」っていう社会問題があったんです。

袖川先生

それを解決するために、男性の便器にハエのシールを貼ったんですよ。

さえり

え? ハエのシール?

袖川先生

はい。いや、あのね、男性は習性として、便器にハエのシールが貼ってあればそこを狙っちゃうんですよ。それを狙うことで、適度に便器に近づくことができて、飛び散らない。つまりトイレを綺麗に使ってもらえる、と。

さえり

えーっ(笑)! 男性って、そこをわざわざ狙うんですか!?

袖川先生

狙います(笑)

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袖川先生

これ、嘘みたいな話ですが、そのシールを貼るだけで尿の飛び散りが80%減り、清掃費が削減されたというんです。ほんのわずかに、デザインを変えただけですよ。

さえり

たしかに……。めっちゃ笑ってしまいましたが、たったそれだけでトイレが綺麗になったわけですもんね……。

袖川先生

「ルールに従え!」というんじゃなくて、自分がやりたいようにやってみたら社会が変わる! っていうデザインなんですよ。

袖川先生

ちなみに女性はご存じ無いかもしれませんが、新幹線でも男性用の便器に三角形がみっつ並んでいて。そこに命中すると体温で色が変わったりするんです(笑)。

さえり

えっ、しらなかった!!! なんか……たのしそう……。

さえり

そうやって狙わせることで、アムステルダムと同じく清潔さを保つことが目的ってことですよね?

袖川先生

そうです。面白いですよね。たったそれだけで人の行動が変わるんですから。

袖川先生

他にもナッジの例はあって。

たとえば、京都の地下鉄の駅では人が殺到してお年寄りがなかなかエスカレーターを使えずに困っていました。若い人に階段を使ってもらうにはどうしたらいいか? を考えた時に、階段の横に小さく「消費カロリー」を書いたとか、

事故の多い高速道路で、「メロディロード」っていうのを作って、地面の段差を走り抜けるとある音楽のように聞こえる仕組みを作って、ちょうどいいリズムで聞くためには制限速度を守るようになったり、

社員の健康を考えて野菜たっぷりメニューを頼んで欲しいということで、ディスプレイの位置や値段を変えて、自然と「野菜たっぷりメニュー」を手に取ってもらえるようにデザインしたり……。

さえり

どれも面白いですね。ほんの少しのアイデアで、人を無理強いさせるわけでなく世の中が変わるっていうのがすごい……。

さえり

そういう方法を考えるのが「マーケティング」っていうんですか?

袖川先生

これもマーティングの一種、ですね。こういうのが世の中にたくさんあったらみんな楽しいし、いいですよね。

袖川先生

今ね、若い人たちは「どうせ社会は変わらない」って思っちゃってるんです。バブル以降特に何か大きく変わったことが無いから。でもね、社会っていうのは企画とかアイデアとかデザインで変えていくことができる。まずはそのことを知ってほしいんです。

さえり

そっかぁ。「ほんのちょっとのことで社会って変わるんだ」っていう小さな体験を積み重ねていけば、たしかに幸福度もあがるかもしれないですよね。「幸福じゃない状態」のひとつの「退屈」からも抜け出せそうですしね。

さえり

社会を変えるためのアイデアって、こんなに身近にあるんですね。聞いていて、自分でもちょっと考えてみたくなりました。

袖川先生

おっ、いいですね。そういう風に「どうやったら社会がよくなるか」を考えてみる、そのこと自体も「幸福」につながりますよ。

袖川先生

若い人たちの「無力感」をどうしたら拭えるか、をずっと考えていたんですが、こういう身近なところに何かを変えるアイデアがあるっていうことを知ってもらいたいんです。

袖川先生

急に大きなことを変えようとしなくていい。まずは近くにいる人をどうしたら幸せにできるかなと、規模を小さくして考えてみて欲しいんです。

さえり

わたしも何か「この問題解決できないかな?」と思ったときには、ナッジのお話を思い出して考えてみます。そうやって少しでも「よりよくしよう」という視点で物事を考えて、そうやって取り組んでいるだけでも諦めていた時に比べたら幸福度も上がりそう。

袖川先生

はい。ぜひそうしてみてください。個人の幸せと社会の幸せが結びつくものを「マーケティング」を使って考える……。そうしていくうちに、日本人の「幸福度」は上がっていくんじゃないか。僕はそういう風に思っていますね。

さえり

今日は貴重なお話をありがとうございました!

さいごに

さえり

と言っても、ナッジのような面白いアイデアを思いつくような人になるにはどうしたらいいんでしょうか……。

袖川先生

僕は電通に入ったときに大事なことを先輩に教えてもらったんですけどね、あるとき深夜残業してタクシーで先輩と帰っていたら「お前、ちゃんと遊んでいるか」ってきかれて。「いえ、なにも」と答えたら、「俺らの仕事は、社会に夢を売る仕事なんだよ。その人間が、楽しんでなくてどうするんだよ!」って言われたんです。自分が楽しくなればなるほど、社会に楽しさを広げることができるんだっていうのを新入社員の時に教えられて。

さえり

なるほど……! 自分が楽しくないとなんに関してもより良くしていこうっていう意識にならないのは少しわかります。自分が楽しんでいるときこそ、人にも楽しさを届けられるのかもしれないですね。

袖川先生

そうです。「自分をもっと幸せにしてあげる、すると社会が良くなる」ってみんなが思うようになったら、みんながもっともっと幸せになるとおもいません?

さえり

そうですね。自分を幸せにして、社会も幸せにする。そういう風に幸せのループが作れたらいいですね……。

袖川先生

ね。

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……世界で53番目に幸福な国、日本。物資は豊かになり、争いもないからこそ、幸せのあり方も変わってきているのでしょう。

たしかに「諦め」が蔓延しているように感じる最近の世の中。社会はどうせ変わらない。自分が動いてもどうせ、どうせ、どうせ。

けれど、急に大きな枠組みで「社会をよくしよう!」と思うと無力さを感じるけれど、小さなことをアイデアで変えてみることから……と思うだけで「なんだかできそうな気がする」と思えてきませんか?

そしてなにより「みんなをもっと幸福にするには?」を一生懸命考えていらっしゃる先生のお話は、聞いているだけで「ほっこり」とした幸せな気持ちに。
人に幸せを届けよう、社会をよりよくしようと考えること。それ自体がすでに幸福のループへの第一歩なのかもしれない、と感じました。

「どうせ変わらない」と思っているみなさんが、少しでも「アイデアひとつで人は変わる」ということを知ってもらえればなによりです。高校生のみなさん、今からいろいろな視点を学んで、大人になった頃には社会をどんどんよくする人になってほしいです! 頼む!

それではみなさん、またね〜!

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さえり

書籍・Webでの編集経験を経て、現在フリーライターとして活動中。
人の心の動きを描きだすことと、何気ない日常にストーリーを生み出すことが得意。
好きなものは、雨とやわらかい言葉とあたたかな紅茶。
Twitter:@N908Sa (さえりさん) と @saeligood (さえりぐ)

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