「脳しんとうをナメちゃいけません」 京都学園大学・柳田泰義先生に聞いてみた

「脳しんとうをナメちゃいけません」
京都学園大学・柳田泰義先生に聞いてみた

行ってみた

みなさん、こんにちは! ライターのさえりです。
前回と同じく、京都学園大学の京都太秦キャンパスにやってきました。
今回素朴な疑問をくれたのは、バイオ環境学部食農学科1回生の谷口碧さん。

さえり

本企画ではいつも学生さんが普段から疑問に思っていることを聞いているのですが……、何か素朴な疑問はありますか?

学生

はい、もちろんです。ずっと聞きたかったことを聞こうと思って……。

学生

脳しんとうを繰り返すと認知症になると聞いたのですが、本当ですか?

さえり

えっ……。ノーシントウ……?

学生

はい。脳しんとうです。

学生

脳しんとう、わかりますよね? スポーツ中や日常生活で時に起こるアレのことです。

さえり

も、もちのろんです。

さえり

でも詳しいことはわからないので、聞いてきますね!!

学生

はい、お願いします。

なんとなく笑ってごまかしましたが、脳しんとうって……。もちろん、聞いたことはありますが、当然詳しく知りません。さらには、“脳しんとうを繰り返すと認知症になるかも?”なんて、初めて聞きました。いったいあの学生さんは何に興味を持っているのでしょう……?

今回は研究内容にどんぴしゃりな、健康医療学部健康スポーツ学科・柳田泰義先生にお話をきくことができました。

柳田泰義先生

大阪府大阪市生まれ。医学博士。神戸大学大学院人間発達環境学研究科教授、神戸大学附属幼小校園長、神戸大学大学院医学研究科研究員を経て現職。 専門は、「スポーツ医学」「バイオメカニクス」。担当科目は、「健康スポーツ総論」「身体運動科学実習」など。プライベートでは水泳、テニス、ゴルフ、マラソンなどを楽しむ。

柳田泰義先生

研究対象は主に、「頭頚部外傷」についてです。簡単に言えば、首から上の怪我を防ぐ専門家…というところでしょうか。

さえり

(学生さんの質問に答えるために生まれてきたような先生だ……)

さえり

よろしくお願いします!

“脳しんとう”は日本では軽視されがち?

さえり

学生さんからの質問で、「脳しんとうを繰り返すと認知症になるって本当か?」と聞かれたのですが、その前に……。

さえり

そもそも、「脳しんとう」ってなんですか?

柳田泰義先生

えっ、脳しんとうをご存じないですか?

さえり

あっ、いえいえ、ほら、知らない読者のためにもね、わかりやすい説明があるといいかなと思いまして……。

柳田泰義先生

あぁ、なるほど。そういうことなら。

柳田泰義先生

脳しんとうというのは、簡単に言えば頭に強い衝撃が加わったときに起こるものです。頭にガーンと衝撃が起こると、頭蓋骨の中の脳が振動するなどが考えられています。 すると脳が「危ない」と感知して、心臓から酸素や栄養を急激に送り込むなど防御作用のようなものが起こります。そのことによって一時的に脳の血管が太くなり、周りの組織が引っ張られて、外傷性の頭痛が起こると考えられています。また、セカンドインパクトシンドロームと云って、1回目で脳が腫れて、2回目の衝撃を受けた時にたいへんなことが起こるとも考えられています。

さえり

脳が腫れる!? めちゃくちゃ怖いじゃないですか……。症状はどんなものがあるんでしょうか?

柳田泰義先生

症状としては、衝撃を受けたあとしばらく立ち上がれず、その後気分が悪くなって、頭痛がする……というものです。特に頭痛は、脳しんとうの代表的な症状です。もし頭を打ったあと、ガンガンと頭痛が続くようなら必ず病院にいってください。

さえり

もし病院にいかなかったら……?

柳田泰義先生

先程のセカンドインパクトシンドロームというような重篤な脳しんとうであれば、最悪の場合死に至る事もあります。

さえり

えっ! 脳しんとうで亡くなることもあるんですね……。

柳田泰義先生

はい。軽い脳しんとうであれば休んでいると治りますが、それも繰り返すと脳に悪影響だということもわかってきました。

柳田泰義先生

ボクシングの元選手が、現役引退20年後に死に至ったという話も聞いたことがあります。時間をおいて症状が出てくることもあるようです。他には、物覚えが悪くなる……とか、目から入ってくる紫外線がものすごく眩しく感じるようになってしまって明るい場所にいられないとか、勉強などに集中できなくなるなどの症状も報告されています。

さえり

何年も経ってから記憶に障害がでるんですか……! 学生さんの質問は「認知症になる可能性があるか」でしたが……。

柳田泰義先生

そうですね。認知症になるかどうかでいえば明確には言えませんが、何度も何度も衝撃を受けていたら生じるかもしれません。きちんと説明できるエビデンスがないので今はなんとも言えませんが、例えばわたしが会ったボクシングの元選手は、物覚えが悪くなって約束を忘れてしまう人でした。彼は「職業病ですから」と笑っていましたが……、これも軽い脳しんとうを繰り返した結果だと思いますね。でもプロボクサーでも問題なく生活している人もいるので個人差もあるかもしれませんね。

さえり

そうなんですね……。でもどうして記憶がなくなったり、物覚えが悪くなったりするのでしょうか?

柳田泰義先生

脳の神経のうち一つは記憶を司どる“海馬”につながっているのですが、振動を起こすことでその神経に問題が発生すると最近わかってきました。すると、シナプスというところで神経伝達物質が過剰に発射され、何度も何度も繰り返すことで、海馬自体に問題が生じて記憶に問題が起こると考えられています。

さえり

えっ、ものすごく怖い……。しかもその当時には症状が出ないのに、後々出てくるというのは本当に怖いですね……。

柳田泰義先生

はい。それなのに、未だ「脳しんとう」の怖さをわかっていない人たちも多くいます。昔よりはだいぶ良くなってきたのですが……。20年程前にイギリスのプロサッカー選手が50代で急死して、その原因が脳しんとうだと話題になりました。日本でもその話題が大きく取り上げられましたが明確な議論はないようです。

柳田泰義先生

たとえば、ラグビーでは1度脳しんとうを起こしたら1~2ヶ月休まなきゃいけないというルールがあります。でも、現場は守ってくれないんですよね。背番号を変えてまで、試合に出ていることもあります。

柳田泰義先生

もちろん勝つことは大事ですが、大前提として怪我をしない・死なないというのはスポーツを楽しむ上で大事なことです。だから私たちは、スポーツをする人に向けて「脳しんとうを起こすとこうなるよ」と教育し、怪我を予防させるのが仕事なんです。

さえり

なるほど……。楽しくスポーツをし続けるためには、怪我をしないことが大事ですもんね。でも、一体どのように予防させているのでしょうか?

柳田泰義先生

ゆっくりお話しますね。

怪我を未然に防ぐために働く研究者たち

柳田泰義先生

アメリカンフットボール(以下アメフト)を例にとってお話しましょう。

柳田泰義先生

アメフトは、アメリカの国技のひとつになっています。プロのフットボール選手がぶつかり合ってその衝撃で、2m近くもある選手が吹っ飛んだりする、そういう激しさを見るのがプロのアメフトの醍醐味というところもあるんです。

柳田泰義先生

でもその激しさゆえに、脳しんとうを起こす選手はたくさんいます。アメリカでは以前は毎年アメフト選手が亡くなっていました。昔はヘルメットも皮でできていたので、重たくて、芝生の露でどんどん重たくなって。そのことによって脳損傷がひどくなることもあったんです。

さえり

え、身を守るためのヘルメットなのに意味ないですね……。

柳田泰義先生

そうなんです。でもスポーツ科学が進歩して、やっと脳しんとうについての理解が深まった。ジェナレリという脳神経外科医のお医者さんや、スポーツ科学の人達が研究を重ねて、ヘルメットの改良を行い、今のヘルメットのような最適な製品を作れるようになったんです。現在ではプロのアメフト選手が亡くなる事故はほとんど無くなったんですよ。

さえり

なるほど……! どんな製品を作れば怪我をさせずに済むか……。それを怪我のメカニズムを研究して、応用していくということですね。

柳田泰義先生

そうです。アメフトなら頭をがつんとぶつけたときに衝撃ができるだけ少なくなるような製品を、野球なら強いボールがぶつかったときに衝撃が少なくなる製品を……というように、スポーツによって製品を変えていく。それが私たちの研究です。

さえり

先生のような研究者がいて、今のように安全にスポーツができるようになるわけですね。

さえり

でも……。そんなことを言っては元も子もありませんが、アメフトの頭をぶつけるのがそんなに危ないなら、ぶつけたりしなきゃいいのに……と私なんかは思ってしまいますが……。

柳田泰義先生

とんでもない。アメリカ人にとっては、あれこそがアメフトの醍醐味なんですから。なんでもかんでも、「危ないのでやめましょう」と言っていたらつまらなくなってしまいます。

さえり

そっか……。楽しみを損なわずにやっていくことをサポートしているわけですね。「危ないから止めろ」ではなく、「やるうえでどうしたらいいか」を研究しているのは、なんだか懐が広いような気がします。

柳田泰義先生

そうですか……? ちなみに、サッカーも結構脳しんとうになってしまうスポーツなんです。ものすごいスピードで飛んでくるボールをヘディングすると、当たりどころによってはかなりの衝撃ですから。

柳田泰義先生

それで一時期、アメリカの研究者が「サッカーでもヘルメットをするべきだ!」と言い始めたこともあったんです。ちなみにサッカーってヨーロッパではものすごく人気があるんですが、アメリカではほとんど人気がなかったんですね。

さえり

へえ、サッカー人気の薄い国、アメリカがそう言い始めたわけですね?

柳田泰義先生

はい。でも、その話は論文に出たりしましたが立ち消えになってしまいました。今でも、サッカーではヘルメットはかぶりませんよね。

柳田泰義先生

なんでだと思いますか?

さえり

え……なんでだろう?

柳田泰義先生

そりゃ、格好悪いからです。

さえり

えっ!そんな理由で!?

柳田泰義先生

サッカーの場合「ヘルメットをかぶってください」と言えば、誰もやらなくなってしまうでしょうね。アメフトは、頭と頭がぶつかるときのあの「ガチャン」という音もかっこいいですが、サッカー選手は「姿が格好いい」とかそういう楽しさもあるじゃないですか。

さえり

あぁ! たしかにサッカー選手はモデルのようにスラッとした人も多いし、髪型もよく話題になりますよね。ベッカムヘアとか流行ってましたし……。そんなサッカー選手がヘルメットをつけたら、たしかに野暮な感じがしますね……。

柳田泰義先生

そうでしょう。何でもかんでも規制すればいいわけじゃないんですよ。代わりに、というわけではありませんがゴールポストを金属ではないものに変えるという改変はありました。脳しんとうを防げるような予防策を、現実的な範囲で“とれるだけとっていく”。それが研究者たちの成果です。

さえり

研究者の皆さんって、理解がすごくあるんですね。文化を守りながら、より良くするにはどうしたらいいかを考えている……。なんだかあたたかさを感じます。

柳田泰義先生

そのほか柔道では指導者の育成不足もあって、頭を打って脳しんとうになり死んでしまう子どもがいたんですね。けれど、「じゃあ柔道をやめよう」とするのではなく、先生側に安全で効果的な指導方法をしっかり教育しようという方針になって、今では死亡事故はゼロになっています。

柳田泰義先生

そんな風に、「スポーツを楽しみながらも怪我をさせない」ためにどうしたらいいか……。それを考えるのが研究者に求められていることだと思います。

柳田泰義先生

これまで、整形外科の先生はスポーツ分野において発信することも多かったのですが、脳の分野である脳神経外科の先生方はものすごく忙しいし、スポーツの分野であまり発言される機会が少なかったと思います。

柳田泰義先生

でも、それじゃダメだと若いお医者さんたちが立ち上がったんです。今後は、私たちも間に入って、お医者さんの見解を選手やコーチに伝えたり、現場の見解をお医者さんに伝えたりと連携をとりながら、脳に関する怪我を減らしていくことが大事なのではないかと考えています。

さえり

めっちゃ熱意を感じます。楽しみを規制するのではなく安全を開発する。素晴らしいですね。

日常生活でも脳しんとうになる?

さえり

だいぶ脳しんとうについてわかってきました。ちなみにスポーツをしなかったら、脳しんとうになる機会って少ないんでしょうか? わたしはスポーツをしないので脳しんとうには無縁かなと心のなかで小躍りしていたのですが……。

柳田泰義先生

いえ、残念ながら、当然日常生活でも脳しんとうの危険はあります。

さえり

がーん。

柳田泰義先生

こけて頭を打ったり何かにぶつけたりすれば起こす可能性がありますし、あとは、ぶつけなくても激しく揺さぶれば脳しんとうや急性硬膜下出血になります。

柳田泰義先生

昔、何かの記録に挑戦しようとしてジェットコースターに36回連続で乗った女の方がいたんですが、彼女は連続で乗るうちに脳で出血を起こしてしまったそうです。脳を覆う硬膜の一部で血管が切れて脳しんとうより怖い硬膜下出血を起こしてしまったんですね。

さえり

えっ! ジェットコースターでも起こるんですか?

柳田泰義先生

最初に言ったみたいに、頭部外傷は脳を激しく揺さぶるなどでなるので。当然、ぶつけなくても脳しんとうになることはありますよ。その他、トランポリンで長い時間続けて跳ぶ場合でも脳しんとうが起こることもあります。

さえり

なるほど。じゃあ、よくヴィジュアル系やパンク系の音楽ライブでみかけるような、“※ヘドバン”はどうなんでしょうか?

※ヘッドバンギング:頭を上下に激しくふる行為

※画像はイメージです。

柳田泰義先生

当然、激しく振れば頭部外傷の原因になると思いますよ。

さえり

なんと! 彼女たちはそんな危険を背負ってヘドバンしているわけですね……。先ほどのお話のように、アメフトだとヘルメット、柔道なら指導法というように、ヘドバンの予防法ってないんでしょうか?

柳田泰義先生

……そうですねぇ……。

柳田泰義先生

やらないでください、ってことしかないですね。

さえり

で、ですよね……。

柳田泰義先生

続けて何回もやらないでくださいってことしか私たちに言えることはありません。楽しみを奪うつもりはないので、その結果どんな風になるのかを理解したうえで全部自己責任でやってくださいと思っています。

さえり

そっか。大事なのは、脳しんとうを起こすとどうなるのか、をしっかりわかっていることですもんね。

柳田泰義先生

はい。できるだけ日常で予防できることはしてほしいと思っています。

さえり

ちなみに脳しんとうを研究している先生は、日常生活で何か予防はしているのでしょうか?

柳田泰義先生

え、私ですか……? 私は、ジェットコースターなんかには乗らないですよ。人間が作ったもんだからこわいっていうのもありますしね。それに、コーヒーカップもぐるぐるまわって遠心力がかかるから乗りません。一回だけ娘にいわれて乗ったことがあるんですが……、そのときもできるだけ衝撃を受けないように体のあとに首を持ってくる動きをしていました。目を回さないようにという工夫でもあったのですが……、結局酔っちゃって……。もう二度と乗らないぞ、と心に決めています。

さえり

先生、先生。コーヒーカップの恨み話は、脳しんとうとは関係ないのでは……?

柳田泰義先生

あっ、たしかに……(笑)

さえり

楽しいことはやりたいもの。でもその上でどうやって予防するかが大事ということですね。

柳田泰義先生

そのとおりです。あとは、スポーツをやる人はもちろんのこと、スポーツをしない人も全員が「脳しんとう」についてもう少し理解を深めてくれるといいのかなと思っています。決して軽視せず、よく理解して好きなことをしてくれたらいいなと。

さえり

なんだか研究している先生の、皆さんへのあたたかい配慮が感じられました。私も微力ではありますが、「脳しんとうって結構危ないことなんだよ」っていうのをこの記事で伝えますね。

さえり

今日はありがとうございました!

さえり

と、いうことで、脳しんとうを繰り返すと認知症になることもあるんだそうで、脳しんとうをナメちゃいけないってことでした。

学生

なるほど〜〜!!! ずっっっっっと知りたかったことだったので嬉しいです。ありがとうございました!

さえり

(一体この学生さんは日々何を考えているのだろう……)。

さえり
さえり

書籍・Webでの編集経験を経て、現在フリーライターとして活動中。
人の心の動きを描きだすことと、何気ない日常にストーリーを生み出すことが得意。
好きなものは、雨とやわらかい言葉とあたたかな紅茶。
Twitter:@N908Sa (さえりさん) と @saeligood (さえりぐ)

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