人間はことばをどう話しているか?「言語聴覚士」という仕事を吉村先生に聞いてみた

人間はことばをどう話しているか?「言語聴覚士」という仕事を吉村先生に聞いてみた

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こんにちは! ライターのさえりです。

みなさんは「言語聴覚士」という仕事をご存知でしょうか?

わたしたちは普段「ことば」を当然のように操って人とコミュニケーションをとっていますが、もし「ことば」を失ってしまったらどうしたらいいのでしょうか?

もし耳が聞こえなくなったらどのように「声」を出すことを学べばいいのでしょうか?

じつはこういった障害を支えてくれるのが「言語聴覚士」。聞き慣れない仕事かもしれませんが、ものすご〜〜〜く大事な仕事なんです。しかも、ここ京都学園大学では、「言語聴覚士」になるための学科があるそう。

今回は、吉村先生にお話を伺ってきました。

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吉村貴子先生

慶応義塾大学総合政策学部卒業。大阪教育大学大学院障害児教育研究科を経て、大阪外国語大学大学院言語社会研究科修了。博士(学術)。現在、京都学園大学健康医療学部言語聴覚学科准教授。病院や診療所などで言語聴覚士の業を行い,言語聴覚士の養成教育に従事している。専門は認知神経心理学。最近の研究テーマは,認知症のコミュニケーション障害についてである。著書(共訳,分筆)に,「認知機能を支える皮質下の組織‐神経心理学的評価からの啓示‐(岩田まな監訳)」(青山社)、「高齢者の言語聴覚障害―症例から学ぶ評価と支援のポイント(飯干紀代子・吉畑博代編著)」(建帛社)などがある。

ことばの訓練をする言語聴覚士ってどんな仕事?

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さえり

「言語聴覚士」……。あまり聞き慣れない職業なのですが、どんな仕事なのでしょうか?

吉村先生

ことばの障害、聴こえの障害、飲み込みの障害をお持ちの方々の支援をしていく仕事です。たとえば小児では自閉症スペクトラムなど発達障害,ダウン症,聴覚障害などの子どもたちの聴こえやことばなどのコミュニケーションの訓練や、成人では,失語症,認知症,聴覚障害などのことばや聴こえなどのコミュニケーションの訓練もしていますね。そのほか、飲み込みがうまくできなくなった人の摂食嚥下障害の訓練もしています。

さえり

いろんな障害の方を対象として、ことばや聴こえに関しての訓練をしているんですね。聴こえの訓練やコミュニケーションの訓練のイメージはなんとなく浮かぶのですが、「ことば」の訓練というとあまりイメージがなく……。

吉村先生

そうですよね。私たちは普段、どうやって話しているんだと思いますか?

さえり

えっ、考えたこともなかったです。脳を使って……とかですよね?

吉村先生

そうです。私たちが普段話しているのは、口が勝手に動いて話しているわけではなく、脳が指令を出しているんです。だから脳の病気でことばの司令塔がやられるようなことがあると、うまく話せなくなってしまうんですね。

吉村先生

それも、通常だと想像もできないかもしれませんが、「りんご」を「ごりん」と言ってしまったり、「ねこ」の概念はわかるのに「ねこ」という文字が分からなくなってしまったり、 漢字はわかるのにひらがなが読めなくなったり。

さえり

そういう風に障害が出るんですね……。全く話せないとか、全くことばを忘れるとかのイメージならなんとなくできますが、漢字よりひらがなが読めなくなるなんてこともあるんですね……。

さえり

現在、日本には何人くらいの言語聴覚士がいるんですか?

吉村先生

毎年1500人ずつくらい誕生していて現在(2016年)では約2万7千人の言語聴覚士がいます。でも、ニーズはまだまだあります。言語聴覚士を必要としている患者さんは潜在的な数を入れると600万人くらいいると言われています。

さえり

まだまだ言語聴覚士の数が追いついていないんですね。

吉村先生

そうなんです。だから就職先もすごく豊富ですし、国からとても求められている仕事なんですが……、まだあまり知られていないのが現状ですね。

吉村先生

今日はわたしたちがどんな仕事をしているのか、少しお話しができたらと思います。

さえり

よろしくお願いします!

「ことばの訓練」、どんなことをするのか

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さえり

先ほどお話しいただいた「ことばの訓練」についてもう少し教えていただきたいのですが……。

吉村先生

はい。まずわたしたちは医療機関などから患者さんが来ると観察して,必要に応じて検査をするんです。どんな障害があって、どんなことがわからないのかを細かく見ていって訓練の計画を立てます。

吉村先生

ことばの訓練の対象になる人は、子どもの発達障害などや、大人だと失語症や認知症などがあります。

さえり

失語症……?

吉村先生

はい。話したいことはあるんだけど、ことばにできないのが失語症。話したいことはあるのに、ことばがでない、聴こえてるのに、何を言っているかわからない、ということが脳卒中などでおこります。

吉村先生

こういった方々のことばを取り戻すといいますか、できるだけコミュニケーションをとることができるようにする、というのが私たちの仕事ですね。やっぱりコミュニケーションで自分の意思を伝えるというのは、人として喜びをもてる部分が多いと思います。

さえり

そうですよね……。わたしももし今自分がことばを失ってしまったらと考えるとそれだけでも怖くなってしまいます。

吉村先生

病気はみんな、なりたくてなるものじゃないですよね。もう一度また一歩をふみだせるように支援するのは本当に大切な仕事だと思っています。

さえり

どんな検査・訓練をしていくのか具体的に教えてもらえますか?

吉村先生

きっと文字だとわかりにくいので、例をみてみましょうか。

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吉村先生

りんごをごりんと言ってしまうような症状は「失語症のひとつの症状」なんですが、自分で音を組み立てることができなくなってしまっているので、並び替えを失敗しないように整理整頓の訓練をします。わたしたちは普段、考えられないスピードでことばの音を並び替えをして、ことばを話しているんですよ。

さえり

普通に話していたけれどこれもことばを並び替えてくれる脳のおかげなんですね……。

吉村先生

そうです。失語症の場合は、他にも複数枚のなかから言ったものを理解して答えてもらうという訓練もします。たとえば「ねこ」の絵を指差して、「ねこ」ということばを探してもらうとかですね。

吉村先生

失語症の場合って、ことばそのものがわからないだけで、原則、概念はわかるんですよ。ただ、ことばの形を理解できなくなるんです。

さえり

え、ことばの形を理解できなくなる?

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吉村先生

そうなんです。「卵どれ?」っていわれたらわからない。けどオムレツを作るのに卵が必要だとか、鶏が産むのは卵だとか、そういうことはわかるんです。

吉村先生

ただただ「卵」ということばをうまく引き出せないだけなんです。

さえり

なるほど……。わたしたちは勉強してそのことばを習得してきたわけですもんね。英単語を忘れてしまうのと同じような感じかもしれないですね。

吉村先生

そうなんです。その他にも、音で聞いてもわからないけど字で見たらわかるという人もいますし、先ほど言ったようにかな文字が難しくて漢字のほうが理解しやすいこともあるんです。

さえり

なんとなくことばを話せない人がいたら「ひらがなで書いてあげよう」とか思ってしまいそうですが……。

吉村先生

そうなんですよね。失語症の人はかな文字で書かれる方が混乱する場合もあります。というのも、一回漢字を勉強した場合は、脳の奥深くにしっかり刻まれているので引き出しやすいことが多いんです。

吉村先生

と、まぁ原則はこうなんですが、同じ障害でも患者さんによって違うので、観察をよくして人の症状をそれぞれ見分けるところから行いますね。

吉村先生

たとえば「男の子が女の子に叩かれているのはどれですか?」と聞いて、その様子を描いている絵を指差してもらうという検査があるんですが、「叩く」という動詞がわかっていない場合、文中の「男の子と女の子」の関係性がわかっていない場合など、人によって違うんですね。

さえり

なるほど……。同じ障害でも一概には言えないことばかりなんですね。

吉村先生

はい。細かく細かくその人の持っていることばを読み解いて行って、判断する。そして訓練するんです。

吉村先生

他にもこういう絵を見て、左半分だけ気づかない障害もあるんですよ。

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さえり

ん? 左半分だけ気づかない?

吉村先生

そうなんです。ことばの司令塔は、右手が利き手の場合は脳の左半球にあるので、左が脳梗塞になると失語症になるんですね。でも、右手が利き手の人の右の脳がダメージを受けると「注意障害」が起こるんです。目は見えているのに左半分は気づかなくなるんです。

さえり

目は見えているのに……。想像するのも難しい……。

吉村先生

そうですよね。先ほどの紙をみて「え」と「つ」を探して丸をつけていってください、というと、見事に紙のどちらか半分だけをチェックしているんです。見えているけど、気づかないんですね。

さえり

なるほど。そういう判断をして脳のどこが障害を負っているか、その結果どんな風に注意を促せばいいのかを考えるという作業なんですね。

吉村先生

そうですね。このほか認知症や、聴こえに障害がある人の聴こえやコミュニケーションの訓練、または脳卒中のために飲み込みの力が弱ってしまって、水分や固形物を飲め込めない人の「飲み込み」を訓練したりなど様々な仕事があるので、ことばの訓練は一部にすぎません。喉頭がんで声がでなくなった夫が、妻に「ありがとう」と言いたくて、発声の訓練をしているような人もいます。

さえり

いろいろな仕事がある中での一部、なんですね。個人的には検査を見ているだけで興味が湧いてきました。普段当たり前に話していることばが、どれだけ脳を使っているかが垣間見えた気がします。

どんな人が言語聴覚士に向いているか

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さえり

お話を伺っていて思ったのですが……、そもそも自分の意思をうまくことばで伝えられない人たちの障害を知って、その人にあった方法で訓練を提示していくわけですよね。すごく難しい仕事……ですね。

吉村先生

そうですね。見えないものをじっくり見極める力が必要ですね。障害だけをみるのではなくて、その人の興味であったり、その人が何を目標としてなにを大切にしているかを含めて見ていく必要がありますね。

さえり

どんな人が言語聴覚士に向いているんでしょうか?

吉村先生

うーん。難しいですが、洞察力とか「これはなんでかな、どうしてかな」っていう興味関心を持てる人。それに、考えることに慣れている人かもしれませんね。あとは話す力より「聞く力」の方が大事ですね。しっかり受け止めて返していくというか。

さえり

(大変な仕事だなぁ)

吉村先生

やりがいはすごくありますよ。そもそも、ことばや記憶、声などというのは、人を人らしくしている部分なので、どういう仕組みで人間が成り立っているのかと知るだけでも学問としてはすごく面白いと思いますし、大事な仕事だと思っています。

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さえり

吉村先生はどうして言語聴覚士になろうと思ったんですか?

吉村先生

人ってどうやってことばを話すのかなって思ったんです。それが知りたくて。学生さんの中には「人の役に立ちたい!」と言って入学してくる人もたくさんいますし、わたしのように「ことばについて知りたい」という人もいますね。

さえり

たしかに「人がどうやってことばを話しているか」、わたしもすごく興味が湧いてきました……。そういう勉強ができるなら今からでもやってみたいです。

さえり

この学科では具体的にどんな風に勉強を進めていって言語聴覚士になるんでしょうか?

吉村先生

まず国家試験に受かる必要があるのですが、それまでには体の構造を知る解解剖学などの基礎医学、内科学、神経学、耳鼻咽喉科学などの臨床医学。そして心理学も多く学ぶんですが、記憶やことばの仕組みについては、学習認知心理学、カウンセリング技術などは臨床心理学、音をどのように感じ取っているかについては聴覚心理学……。こういったことを多岐にわたって勉強します。

さえり

たくさんありますね……。友達と遊んでいる暇とかなさそうな……。

吉村先生

そんなこともないみたいですよ。サークルやアルバイト、ボランティア活動をしている学生たちはたくさんいます。

さえり

あ、じゃあちゃんと大学生らしくウェイッとすることもできるわけですね。安心。

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さえり

でも「言語聴覚士」になるための学科が大学にあるのは意外でした。わたしのイメージだと専門学校や医療学校などにありそうだなと思っていました。

吉村先生

そうですね。もちろん3年間で国家試験をうけられる専門学校もあり、それぞれに特長があるのですが、大学の場合は4年間のスモールステップで、積み上げて積み上げてしっかり定着していくことをカリキュラムの特徴としてあげていますね。

吉村先生

そしてなにより、大学で学ぶ良さは「教養」を強みにできる勉強ができることでしょうか。患者さんの人生や興味も含めて考えて訓練していく仕事なので、教養の面はあるに越したことはないです。

さえり

あぁ他の勉強ができるのって、本当に大学の良さですよね! わたしも学科は「心理」だったんですが、そのほかで哲学を勉強したりマーケティングを勉強したりできて楽しかったです。そういう体験をしながら資格をとるための勉強ができるというのはいいですね。

吉村先生

そうですね。あと私がすごく伝えていきたいのは、「女性が就きやすい仕事」ということなんです。もちろん男性も働きやすいのですが、夜間の対応なども基本的にはありませんし、働く時間もしっかり決まっているところが多いんです。

さえり

たしかに。医療分野にしては規則正しい生活ができそう。

吉村先生

それに、冒頭でも話したようにいまは就職先がかなり豊富なので、就職に有利ですね。「今の状態をいい状態に保つ」というのが仕事に加えて、私たち言語聴覚士は「今の状態をよくすること」に関わることができる分野です。やりがいはすごくありますよ。

さえり

言語聴覚士学科に入った方はみんな言語聴覚士になれるんですか?

吉村先生

国家試験に合格しないといけないのですが、合格率は新卒であれば8割程度ですね。

吉村先生

「言語聴覚士」になれる大学で、男子が入れる総合大学は京都ではここだけです。男女ともに、ですが、たくさんの人が入学してくれるといいなと思っています。そして「言語聴覚士」を増やすだけでなく、もっとたくさんの人にこの仕事を知ってもらえたらいいなと思っています。

さえり

今日はありがとうございました!

さいごに

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「少しずつ社会的に知られるようになってきたけれど、欧米に比べるとまだまだ知られていない仕事」と語った吉村先生。

たしかにわたしも近くに言語聴覚士の友人もいなければ、訓練を受けている友人もいません。

まだまだ知られていない職業ではありますが、高齢化に伴って、また小児の分野でも、赤ちゃんからご高齢の方まで、ますますニーズが高まる仕事です。地方でも就職先は豊富。また資格があればどこへ移動しても同じ仕事に就くことができます。就職にも有利ですし今狙い目の仕事なのでは? と感じました。

「ことばを話す」というわたしたちにとっては当たり前のことを、こんな風に支えている人たちがいます。その事実を知って、「言語聴覚士」という仕事に興味が湧いた中高生が少しでもいればこれ以上嬉しいことはありません。

それでは、またね!

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さえり
さえり

書籍・Webでの編集経験を経て、現在フリーライターとして活動中。
人の心の動きを描きだすことと、何気ない日常にストーリーを生み出すことが得意。
好きなものは、雨とやわらかい言葉とあたたかな紅茶。
Twitter:@N908Sa (さえりさん) と @saeligood (さえりぐ)

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