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先生に聞いてみた【44】 若村 定男 教授

更新日:2017年7月6日(木)
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京都学園大学でユニークな研究に携わる先生に突撃インタビューする「#聞いてみた」シリーズ。44回目は、虫たちが交信する“フェロモン”という信号について研究されている若村先生にいろいろ聞いてみました。

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昆虫が発するフェロモンの研究から
農作物の健やかな育成を支える、
フェロモン剤の開発まで。

虫たちが交信する、フェロモンという信号。
それを化学的に合成することで、農作物に被害を及ぼす害虫の繁殖を抑制。
昆虫と化学の力が融合した、今後ますます期待される研究分野について、
若村先生にお話をうかがいました。

豊かな里山に囲まれた自然の中で育って。

Q:どんな子ども時代を過ごされましたか?

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私は、滋賀県の日野町で生まれ育ちました。今、子どもの頃のことを思い返してみても虫に特別な興味をもってはいなかったですね。ただ、今でこそ「多肉植物ブーム」などと言われていますが、昔からサボテンには興味がありました。150種類ぐらい集めていて、ちょっと風変わりな趣味ですね。今でも植物を見るのも育てるのも好きです。
それから、後々の私の研究への道に、少なからず影響を与えていると思えるのは、中学一年生の時の理科の先生との出会いでしょうか。
私の故郷は、自然豊かな田園が広がっていました。また周囲に里山もたくさん点在していました。そこで授業の一環として、教室を出て青空の下、一種の野外観察のような時間を設けてくれていたのです。授業といっても昼になれば弁当を広げて食べるのです。とても自由な雰囲気で、いやあ楽しかった。その時、意識していたかどうかわかりませんが、多くのことをその先生から学んでいたように思います。好きな教科は算数と理科、嫌いな教科は英語。それからスポーツと暗記も苦手な少年でした。

Q:現在の研究に至るまで、どちらかといえば一筋の道でしたか?

大学は京都大学の農学部に入学しました。専攻は、農芸化学です。本学のバイオ環境学部と同じように4回生からは研究室に分かれて卒業研究をすることになり、私は「農薬化学研究室」に入りました。卒業論文は、「有機塩素系殺虫剤の代謝中間体の異性化」という内容のテーマでした。その後、大学院で昆虫の性フェロモンに出会い、修士論文では「交信かく乱法」の原形となるようなテーマを扱いました。修了後、農林省(当時)四国農業試験場に就職し、大豆などの害虫であるハスモンヨトウという蛾の性フェロモン利用研究に携わりました。農林水産省蚕糸・昆虫農業技術研究所(後の農業生物資源研究所)に移ってからは、昆虫のフェロモンなどの化学交信の基礎研究を続けてきました。性フェロモンを使った交信かく乱法には、学生時代から今日までずっと関わり続けています。
今こうやって振り返ってみますと、中学生の頃に里山の中に入っていろいろなものを観察していたことが、「農業」と「化学」の融合というかたちで、一貫してつながっているのでしょうか。

虫たちのフェロモンを化学合成し、害虫防除に利用する

Q:現在研究をすすめている、具体的な内容についてお話しください。

私たち人間が言葉でコミュニケーションをとっているように、昆虫はある種の匂い=フェロモンを放出し、同種の個体がそれを受け取ることで交信していることがわかってきました。たとえば昆虫の雌が匂い物質を放出して雄を誘引する性フェロモンを化学物質として特定する。さらに、その物質を人工的に合成し、性フェロモン剤として害虫防除に利用できるようにする。つまり、農産物を加害する害虫の防除につなげようという研究です。

具体的な研究活動の事例についてお話すればわかりやすいですね。たとえば、私が所属していた研究所では長年、沖縄県の農業研究センターと協力して、宮古島に多く生息する「ケブカアカチャコガネ」というコガネムシを対象に調査と研究をすすめてきました。この幼虫は、島の特産であるサトウキビの根や地下茎を食害し、収穫直前に枯らしてしまうという甚大な被害をもたらしていました。そこでこの虫の性フェロモンの化学構造を解明して防除に利用しようというわけです。人工的に合成した性フェロモンをサトウキビ畑の空気中に充満させるのです。するとオスたちは、本物のメスが発信した本物のフェロモンを区別できなくなり、メスを探索できなくなります。メスとオスのフェロモン交信を妨げる(かく乱する)ので、「交信かく乱法」といいます。ケブカアカチャコガネについては、本学に移ってからも共同研究を続けることができ、本学の学生諸君も毎年現地調査に参加してもらいました。その結果、見事に「交信かく乱法」の実用化に成功したのです。

宮古島の青空の下、多くの実験から得る成功体験。

Q:学生たちといっしょに、研究活動をされているのでしょうか。

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学生たちの力は、とても重要でした。宮古島のサトウキビ畑に出て、昼は交信かく乱剤の処理やフェロモントラップの調査、幼虫の掘り取り採集やその準備、夕方には成虫の行動観察、夜には成虫の交尾率を調べるために畑に入って成虫を採集。研究センターに持ち帰って、個体数の調査が終わると21時で、そのあと夕食です。好天が続くとこれを毎日繰り返します。朝は9時から夜は22時頃まで、様々な作業に取り組んでもらいました。身体を動かす作業だけでなく刻々と得られるデータ分析など彼らの協力がなかったら成果を得るのがもっと遅れていたかもしれませんね。
時期は2月、南の宮古島も夕方18時の気温が18度を下回ると、成虫は地上に現れません。寒い日は、日中の気温が18度以下のときもありました。そのような日は、夕方から夜の調査ができませんから、地下ダムなどの農業施設やバイオエタノール製造工場、農産物直売所の見学、観光地巡りなどにいそしむことになりました。不思議なもので、学生諸君は見学や観光の時より、作業や調査の方が生き生きしていましたね。学生諸君が参加した調査の結果は、日本やヨーロッパの国際学術誌に3編の原著論文として出版しました。うち1編は共著者として名を連ねてもらい、他の2編では謝辞を献じました。

Q:では、本学で学ぶメリットと、学生たちへのメッセージを。

バイオ環境学部に入ってくる学生たちは、基本的に生物が好きな人たちだと思っています。生物というより「生き物」の生態、つまり「生き様」は、知れば知るほど面白さが増してくるんです。バイオ環境学部には、生物と環境をマクロにみるバイオ環境デザイン学科と、目に見えない微生物や分子にまで切り込むバイオサイエンス学科があります。生き物、特に昆虫の行動や習性を、化学物質を特定することによりうまく説明できたり、謎が深まったりします。生物と環境をマクロにみる「デザイン学科」のセンスと、目に見えないミクロに切り込む「サイエンス学科」のスキルとのコラボが、「生き物」の「生き様」をより深く理解し、新しい発見につながっていく。それこそがバイオ環境学部の魅力の一つだと思います。
バイオ環境学部の立地は申し分ありません。周辺の自然環境を見れば、豊かな里山に囲まれています。入学したら、まず化学や生物学の基礎的・基本的知識を身につけてほしい。大学は苦手科目の克服を目的とするところじゃないと思いますよ。興味のあることや好きなことを思いっきり学問して面白くするところ。そして、知識や経験をもとに、しかもそれにとらわれない少年のような目で生き物の生き様を見、自分の興味の方向を見つけさらに究めていって欲しいですね。そこでは、苦手も嫌いも、やるしかない。その条件はそろっています。

Q:先生の好きなものは何ですか。趣味についておたずねします。

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趣味は二つあります。一つは、長年愛読してきた本を自分の手で今一度丁寧に製本し直してよみがえらせることです。気に入った「古布」や「マーブル紙」などを使ってまるでオリジナルの一冊のように生き返ります。しっかり補強もしますから、これからも愛蔵本として手もとに置いておくこともできます。
二つ目の趣味は、「道歩き」です。ここ半年ほど奈良の「山の辺の道」歩きにはまっていて、毎月1回は桜井から天理まで歩いています。同じ道なのに、秋から冬にかけて季節が移り、見慣れた風景に毎回新鮮な何かに心洗われる思いがします。道筋のお気に入りの店で「にゅうめん」や「そば」をいただき、農産物の無人店で果物や餡餅を買う。同じような繰り返しの中の何かを楽しみに、少なくともあと半年歩き続けようと心に期しています。

若村 定男先生バイオ環境学部 バイオサイエンス学科

若村 定男(わかむら・さだお)教授

滋賀県出身。亀岡市在住。京都大学大学院農学研究科修士課程農芸化学専攻。専門分野は「生物有機化学」「応用昆虫学」。担当科目は、「化学」「昆虫の科学」「化学生態学」「環境化学」「有機化学実験」等。所属学会は、「日本応用動物昆虫学会」「日本半翅類学会」。

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