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先生に聞いてみた【78】高瀬 尚文教授

更新日:2018年2月21日(水)
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京都学園大学でユニークな研究に携わる先生に突撃インタビューする「#聞いてみた」シリーズ。78回目は、「本学の研究は、社会が求める豊かさや健やかさを実現するための“バイオサイエンスとバイオテクノロジーの良き仲立ち”でありたい」とお話されるバイオサイエンス学科の高瀬先生に、いろいろ聞いてみました。

サイエンスでもテクノロジーでもない、その中間に位置する研究活動で、
豊かで健やかな、いのちと社会づくりに貢献するために。

夢を夢で終わらせることなく、社会が求める夢の実現のために考え、動き、実践する。そんな実践研究活動としての学問について高瀬尚文先生にお話をうかがいました。

「生命とは何か」。ひとつの根源的な疑問をつきつめて。

Q: 先生は、子どものころから生き物に関心があったのですか。

出身は、千葉県の市川市です。東京駅まで20分ぐらいの距離ですから、ほとんど東京ですね。子どものころから虫が好きでした。幼稚園の卒業式で「将来は、昆虫学者になりたい」と言っていたそうです。附近の空地や原っぱや池で、バッタやザリガニ、カエルなどを採集していました。ごく自然に生き物にふれ、好きになり、関心をもつようになっていったのでしょうね。
そして高校1年生の時、DNAの話を聞く機会があって、漠然と「大学では分子生物学をやろう」と決意し、大学は北海道大学に進学しました。当時の私は、分子生物学を学ぶには微生物が最適と考え、農学部・農芸化学科にある微生物工学研究室で微生物の増殖に関するテーマで卒業研究に取り組みました。微生物は、新しい環境に移されると、すぐに増殖(細胞分裂)を開始するのではなく、増殖のための準備期間を必要としますが、細胞が増殖(細胞分裂)を開始するために、そこでどんな準備をされているのか分かっていなかったのです。それを解明しようというのが研究テーマでした。何より、増殖(細胞分裂)という言葉が心に響きました。
こうして、増殖(細胞分裂)を通じて「生命とは何か」、それを「分子の目で見てみたい」、さらには「生き物の生きているその仕組みを知りたい」という、私なりの分子生物の探求が始まりました。そのまま大学院の修士課程に進学し、毎日、微生物を培養しては、膜の物質輸送を分析する日々を過ごしていました。博士課程への進学を機に、農学研究科から理学研究科に移り、遺伝子の発現調節の仕組みの解明を研究テーマとした分子生物学の道を歩み始めることになりました。その時の研究材料がコムギだったこともあり、植物研究に関わりながら、国立の研究所、大学、経済産業省系の研究機関を経て、バイオ環境学部の開学とともに本学に移ってきました。

サイエンスでもテクノロジーでもない、その中間に位置する研究という発想で。

Q: 現在の研究に対する思いをお話しください。

基礎的な研究から、応用的な研究まで、多岐にわたる研究活動を経て、今思うのは、経済産業省系の研究機関での研究業務が、今の研究に対する思いの形成に大きく影響しています。この研究機関は、気候変動に関する枠組条約である京都議定書を受けて設立されたことから、私が所属した植物グループのミッションは、大気中二酸化炭素の吸収源となる植生の拡大のための基盤技術の開発と、化石資源に代わる資源植物の創製のための基盤技術の開発でした。誰かが環境問題を解決するのではなく“自分たちが”という意識が強くなり、地球環境問題がリアルな課題でした。また、産業界が求める研究と基礎的研究との距離の大きさを痛感させられました。基礎的研究の成果の多くは、産業界が活用したい水準に達していないと納得せざるを得ない場面を多く経験したからです。

基礎的な学問としてのバイオサイエンスと、実践的な学問としてのバイオテクノロジーとの間にある溝を埋める、その“仲立ち”となる研究を目指しています。これは、どちらが先行して、どちらが重要かということではなく、現在の社会の要請に応えるためには、バイオサイエンスでもバイオテクノロジーでもない、その中間に位置する研究活動が不可欠であると思っているからです。
たとえば、基礎的研究で得た成果を仮に「発見」と表現してみましょう。この発見は、私たちが暮らしている社会で応用・活用されてこそ、ほんとうの「成果」と言えるのではないでしょうか。
何かを創り出すために、基礎的な研究成果を産業界で活用できる水準にまで高める。そして、実用化に向けた明確な戦略を社会に提案し、その実現可能性を社会に示すことで、産業界が納得し、実際に生活に活かせてこその学問だと思っています。夢を追うことは、もちろん素晴らしいことですが、それを実現してこその夢であって欲しいと願っています。

従って本学での研究は、社会が求める豊かさや健やかさを実現するための「バイオサイエンスとバイオテクノロジーの良き仲立ち」でありたいということを根本に据えた活動と考えています。

植物が持つ潜在能力を発見し、それを引き出す植物のデザイン。

Q: たとえば、具体的に学内でどんな研究活動をされているのでしょうか。

一言で言うと、遺伝子やタンパク質の研究を通じて、植物が持つ潜在能力を発見し、引き出す研究活動です。
現在、学生とともに取り組んでいる研究活動の一端を紹介してみましょう。たとえば、本学の近隣にある京都府農林水産技術センターとの連携で、丹波黒大豆の品種改良を念頭に研究に取り組んでいます。丹波黒豆は、「丹波」とあるように京丹波地方の地域特産物で、おせち料理用の煮豆として最高級品というブランド特産物であり、最近は10月中旬に収穫できる枝豆も人気です。実は、丹波黒豆の枝豆の旬は10月中旬から下旬のわずか2週間。楽しめるのも2週間の限定です。そこで、京都府では、晩生(おくて)の丹波黒豆と収穫期をずらした中生(なかて)の丹波黒豆品種である「紫ずきん」と、早生(わせ)の丹波黒豆品種である「京夏ずきん」を世に出してきました。枝豆出荷時期が1回から3回に増えることで、夏から秋まで丹波黒豆の枝豆を楽しめ、生産農家の売上は3倍になると見込めるわけです。
私たちは、これら丹波黒豆品種をさらに高品質化するために、遺伝子レベルでの研究に取り組んでいます。また、安定的多収は、生産農家にも消費者にとっても大事な課題となっています。さらには、丹波黒豆の根にできる「根粒」の老化に注目し、根粒の老化プロセスの一端を明らかにしつつあります。この研究を推し進め、根粒の老化が遅れた安定的多収の丹波黒豆品種の開発につなげていきたいと思っています。
植物と微生物の相互作用にも興味があります。先程紹介した丹波黒豆の「根粒」も、植物細胞に根粒菌とよばれる細菌が共生することで形成される構造物です。今年度から、植物の健康状態を管理する微生物の役割、また植物に共生する菌類、すなわちマツタケを含むキノコの研究にも挑んでいます。
また、農産物以外に、石油代替資源となる資源作物の開発にも取り組んでいます。

Q: 学生たちを見ていて、感じておられること。ご要望があれば。

素直というか純朴な学生が多いというのが、全体的な印象です。学生たちは、よくやっていますね。卒業研究のテーマを選択する時は、学生たちの希望を叶えるようにしています。と言いますのは、卒業研究は学生たちが好きな学びを探求できる最後の機会かもしれないからです。ですから、卒業研究では、自らの思いが駆動する「研究への情熱」を育みながら、試行錯誤をいっぱい繰り返し、その中で多くのことを学んで欲しいですね。そんな1年間を過ごせるように、研究室に配属されるまで、基礎的な学びをしっかりと積み上げて欲しいと思っています。
また研究には、長期的な視点が必要です。卒業研究自体は1年間ですから、できることも限られてきます。研究は、先輩から後輩へと受け継がれることではじめて進んでいきます。実際、指導している学生たちも自分のミッションの理解が深まるにつれて、真面目に取り組む姿から、夢中になって取り組む姿へと変貌していきます。まるで、駅伝のたすきリレーを見ているようです。また、プロジェクトによっては、複数の学生たちとチームを組むこともありますね。本学の学外の方たちと連携しながら進めることも多くあります。そういう意味では、自分一人の活動というだけではない、自分以外の人との研究活動を通したつながりも大切になってきます。ですから、日々のコミュニケーションについても、身につけて欲しいですね。必ず、こうした経験は、社会に出てからも活きてきますから。

Q: 研究活動以外で、ユニークな体験をお聞かせください。

北海道の大学では、『ヒグマ研究会』というサークルに所属して、文字通り、ヒグマの生態調査をしていました。このサークルに入るために北海道大学を選んだ先輩や、“ほんもの”のヒグマの研究家になった先輩たちもいます。私の動機は「北海道の大自然の中に立ってみたい」、「でも山岳部というのも…」という程度だったのですが、入ってみてほんとうに楽しかった。大雪山や知床岬などでテントや山小屋で生活をしながら、ヒグマの足跡をトレッキングしたり、糞を持ち帰って食性を調べたりして、ヒグマの生態を調査するのです。先輩たちのさまざまな伝説を聞いていますので、真新しい糞の塊を発見した時は「今も、この辺りに…」と思いが巡り、ドキドキ感200%ですね。

分子生物学という、ミクロの世界に興味をもって北の大地に立った私でしたが、大自然とともに生きているヒグマを通じて壮大なマクロな世界を実感したのです。「自然から生物のみを抽出してしまうと、生物のことはわからない」「人を無視して自然のみを見ていても、自然は分かりえない」…。ヒグマ研究会での体験は、私にとって、より大きく広い視野で、「生命とは何か」また「生きていくための環境とはどうあるべきか」を意識させるに十分な貴重な時間となったと、しみじみと思い返しています。

バイオ環境学部 バイオサイエンス学科

高瀬尚文(たかせ・ひさぶみ) 教授

千葉県出身。理学博士(北海道大学)。北海道大学大学院理学研究科博士課程植物学専攻。岡崎国立共同研究機構・基礎生物学研究所・講師、日本学術振興会・特別研究員、名古屋大学・理学部・助手、奈良先端技術大学院大学・バイオサイエンス研究科・助手、財団法人地球環境産業技術研究機構・主任研究員を経て現職。専門分野は、「植物細胞工学」「植物デザイン学」。担当科目は、「植物生化学」「植物細胞工学」「作物栽培実習」「植物バイオ実験」等。

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突撃インタビュー「# 聞いてみた」